論理ツリーやクラウドの内容を検証する
これまで弊社コラムで、TOCの思考プロセスで用いられるさまざま論理ツリーや、対立を解消するためのクラウドなどの図を取り上げてきました(「核となる「問題」に迫るTOCの思考プロセス」や「仕事や家庭で感じるジレンマを解消するには」をご覧ください)。
これらのツール群は誤って用いられると、期待した効果が十分に得られません。それだけでなく、誤った結論を導き出してしまい、問題を生み出している真の原因にたどり着くことも、それを解消することも叶わなくなります。
ここで有益なのが、CLR(Categories of Legitimate Reservation)という検証プロセスです。CLRは日本語に直訳すると「正当性留保の分類」となります。
「えっ、Reservationって『予約』のことじゃないの?」と思われるかもしれません。英語のReservationには、予約以外にも、判断を留保する、ちょっと立ち止まってじっくり考えてみる、といった意味が含まれています。
CLRは、TOCの思考プロセスで用いられるさまざまなツリーや図が論理的に矛盾していないかどうか、いちど立ち止まってじっくり検証する手法です。たとえば、現状ツリー(CRT)を用いて経営や組織における問題を可視化する際に、「本当にそれであっているのかな?」と自問したり、周囲のメンバーの判断を仰いだりする場面が出てくることがあります。CLRは、そのような場面で不明点や疑問を解消し、内容をブラッシュアップするための道具に位置づけられます。
なお、TOCではこのような検証を行う人を「Scrutinizer」(直訳すると「精査する人」)と呼びます。
さて、CLRの各チェック項目は、3つのレベルに分けられます。
- レベル1:ツリーや図の作成者が記述している単語や文章の意味を確かめる段階です。
- レベル2:ツリーなどの中に記されたエンティティ(図に表現されるボックス)や関係性が現実に存在しているかどうかをチェックする段階です。
- レベル3:文意を補ったり、足りないエンティティを追加したり修正したりする提案を行う段階です。
レベル | チェック項目 | 意味 |
1 | Clarity Reservation | 意味や関係の明瞭性に関する留保 |
2 | Causality Existence Reservation | 因果関係の存在に関する留保 |
Entity Existence Reservation | エンティティの存在に関する留保 | |
3 | Cause insufficiency Reservation | 原因の不十分さに関する留保 |
Additional Cause Reservation | 追加する原因に関する留保 | |
Predicted Effect Reservation | 予測される結果に関する留保 | |
Cause-Effect Reversal Reservation / Tautology Reservation | 原因と結果の逆転に関する留保 / 同語反復に関する留保 |
各レベルは上の表に、7つのカテゴリーに分類されます。
7番目のカテゴリーには2つの項目が含まれていますが、それらを個別のカテゴリーにわけて計8つに分類しているケースや文章も見受けられます。
本稿では、7つのカテゴリーで進めます。次にそれぞれのカテゴリーの概略をご説明しましょう。
言葉や文章の意味を明瞭にする
- [ Level 1 ] Clarity Reservation (意味や関係の明瞭性に関する留保)
各種論理ツリーやクラウドなどのエンティティで用いられる言葉の意味が不明瞭で、関係者間の相互理解や合意形成に支障がある場合にそれを解決するための確認プロセスです。
たとえば、あるエンティティの中に次の文章があったとします。
この文章は、次のどちらの意味にも受け取れます。
- A社は新たに設立された、素材開発企業である。
- A社は、新素材開発を主力事業とする企業である。
この文章の明瞭性を確かめるには、文章の作成者に対して「A社は新会社なのでしょうか、それとも新素材を開発する会社でしょうか?」と質問をするとよいでしょう。
明瞭性のチェックは個々の言葉の意味だけでなく、原因(cause)と結果(effect)の関係性も対象になります。例を挙げましょう。次のようなツリーがあります。
このツリーにおいて明瞭性を確認する点はどのような点でしょう。たとえば、次のような質問を投げかけることは重要です。
- 「活動基準原価計算がどのようなものでしょうか?」
- 「製造コスト計算の正確性に、また価格設定にどのように影響しているでしょうか?」
- 「文中に記された用語の定義や、仕組みや関係性が、プロジェクトに参加するメンバーに十分に理解され、共有されているでしょうか?」
「活動基準原価計算」などの専門的な知識や用語はそれを普段から取り扱う部署のメンバーであれば理解しているかもしれませんが、他の部署のメンバーがプロジェクトに入っているとそうした専門用語に翻弄されて、十分に「腹落ち」していない不満があるかもしれません。
ツリーや図の作成者は自分がわかっているつもりでも、周りのメンバーも十分に理解しているでしょうか?
また、逆にツリーや図を見せられたメンバーが知らない言葉や情報が含まれていないか? 「知ったかぶり」をせず遠慮なく打ち明けられるオープンな雰囲気があることが大切です。前提や仮説があやふやだったり間違ったりしたまま、議論が進むと誤った結論にたどり着いてしまう可能性にご注意ください。
事実に基づくエンティティや関係性のチェック
- [ Level 2 ] Causality Existence Reservation (因果関係の存在に関する留保)
これは提示された原因と結果の関係性が実際に存在するかどうかに関する質問です。例を挙げましょう。
さて、矢印「↑」の下にあるエンティティが原因を示し、矢印の先にあるエンティティが結果を表しています。さて、この原因と結果は、成り立っているでしょうか?
ある国の法令をすべて理解するのは並大抵のことではありません。たとえ弁護士資格の保有者であっても、専門領域以外の法令については調べてみないとわからないことが多いでしょう。弁護士の資格を有することは、国内の法令についてのある程度の理解度を証明するうえで必要ですが、それを保持しているからといって最新の法令すべてに精通していると断言するには不十分です。したがって、2つのエンティティの間に適切な因果関係が存在するとはいえません。
このような因果関係のエンティティをもし見かけたならば、次のように質問してみましょう。
「弁護士の資格を有していることは、ある国のあらゆる法令を理解しているといえますか?」
- [ Level 2 ] Entity Existence Reservation (エンティティの存在に関する留保)
次のチェック項目は、論理ツリーなどに含まれるエンティティが、現実に基づいている内容か否かに関するものです。
たとえば、次のようなエンティティが記述されていました。
このエンティティの内容は、記述した本人の主観に基づく意見といえます。具体的な収入金額が記されていませんが、別な人の生活水準から見ると「その金額ならば妥当だ」と思うかもしれません。また別な人は「この金額では私には全然足りない」と思うかもしれません。つまり、客観的な論述とはいえないということです。
「十分な」ということであれば、それがどんな根拠に基づいているのか、という事実を踏まえた説明が必要です。したがって、この場面では、
- 「なぜあなたはその金額が不十分だと思いますか? 」
- 「ご説明になったエンティティの内容は漠然としていないでしょうか? 収支の内訳や具体的な不足金額など事実や根拠に基づいた内容になっているでしょうか?」
というように、そのエンティティが現実に存在しているのかどうか見直すことを促す質問をするとよいでしょう。
さて、今回は、CLRにおける意味や文章の意味を確かめるレベル1と、エンティティの実在性や関係性を確かめるレベル2のカテゴリーについて概略をご説明しました。
弊社プログレッシブ・フロー・ジャパンのお客様にも、思考プロセスを取り入れて業務を行なっているケースがあります。ただ、ツリー作成者の考えがうまく関係者に伝わっていないことがしばしばあります。
そのような際に、「これじゃだめだ!」と頭ごなしに否定するとツリー作成者が怖気付いたり戸惑ったりするかもしれません。そうではなく、今回ご紹介したCLRに基づいてうまく質問をしてあげることで、作成されたツリーに何が不足しているのか、相手を傷つけずに検討を促したり、お互いに自分の意見を発言しやすくなったりすることができます。ツリーや図の不備を否定したり詰問したりする場ではなく、核となる本質的な問題を探るために関係者が本心を打ち明けたり話したりしやすい雰囲気や職場環境を作るための工夫なのです。
さて、文意を補ったりエンティティや関係性を追加、修正提案したりするレベル3のカテゴリーについてはこちらの後編にてあらためてお伝えしたいと思います。
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