「人は変化に抵抗するのか?」という問いは、制約理論 (TOC) が誕生して以来、ずっと取り組まれてきた問いです。その答えを見つけるには、変化のプロセスそのものに目を向けることが有効です。TOC の創始者である故エリヤフ・M・ゴールドラット博士は、変化のプロセスの定義を提示しました。この定義は、「変化の3ステップ」と呼ばれ、多くの論文や講演、講座で詳しく紹介されています。 変化の3ステップとは、
- 何を変えるか?
- 何に変えるか?
- どのように変えるのか?
です。
「人は変化に抵抗するのか?」という問いに答え、そして大きな変革を検討する際、人と組織の動機を深く理解しようとすれば、そのプロセスの一環でさらに新たな2つの質問に答える必要があります。
1つは、前提条件である「なぜ変えるのか?」という質問です。もう1つは、「どのように変化を継続させるか? 」です。それぞれの背景を順に述べましょう。
1つめのシンプルな質問、「なぜ変えるのか?」に答える前にいきなり、当初の質問の1番目「何を変えるか?」に飛びつくことは、改善を生み出そうとする人々にとって失敗の一因になりかねません。素晴らしいアイデアやサービス、製品を思いつき、上司や潜在的な顧客に熱心にプレゼンしたものの、丁重に断られた経験が何度あるでしょうか?

変化を起こすためには、まず、「なぜコンフォートゾーンを離れて、有益である可能性は非常に高いものの、ほぼ確実にリスクを伴うことに飛び込む必要があるのか」に同意する必要があります。多くの調査や、経験則(例えば株式取引で得られたもの)から、人は喜びを得るよりも、痛みを避けるために多くのことを行うことが分かっています。「なぜ変えるのか?」という質問に正しく対処しなければ、変化による痛みがせっかくの利益獲得を阻みかねません。このことは、本テーマをより的確に言語化するだけでなく、成功と失敗の分かれ目となる非常に現実的な問題です。
惰性は、マネージャー(経営者)が正しい行動をとるのを阻む、主因となりえる力の1つです。私たちが経営者の方々と企業経営のあり方を変えようと話すと、「でも、私たちには戦略があります!」という反論を受けることがよくあります。そして、「その戦略によって目標を達成していますか?」と尋ねると、たいてい「まだです。しかし、私たちは活動を改善し、もっと粘り強く、献身的に努力します」という答えが返ってくるのです。
ここで思い浮かべるのは、「ゴリラの捕まえ方」という寓話です。

ゴリラを捕まえるのは簡単ではありません。(もともとの性分は温和といわれますが)ゴリラはとても強い動物です。ゴリラを捕まえようとする人は、ジャングルの中で、小さな穴が開いている大きな木を探します。そして、その木の穴の中にバナナを置いて、待ちます。 たまたま近くに来たゴリラはバナナの匂いを嗅ぐと、穴の中に手を突っ込んでバナナをつかみます。しかし、穴が小さすぎて、バナナをつかんだ拳を引き抜くことができません。これでゴリラは動けなくなりました。そこでゴリラはどうするか? ゴリラは持ち前の猛烈な力で、木を揺すり、罠から抜け出そうと、ますます粘り強く、全力で引っ張ります。しかし、結果は芳しくありません。ゴリラが手を抜くためにできる唯一の行動は、バナナから手を離すことです。が、そうはしません。バナナから手を離すのはゴリラの習性に反するのでしょう。いまならばゴリラに近づけるかもしれません。ゴリラはバナナから手を離す、というパラダイムシフトができないために、うまくいかない戦略(力を使う)を選び続けているといえます。
企業では、多くの経営陣は周知の戦略をより大きな力で(資源を使い果たして)追求し続けますが、期待された結果は現れません。問題は戦略にあるのに、同じことをより強力に行い、違う結果が出ることを期待するのは無理な話です。なぜ変えるのか?という質問は、まさにこのテーマに光を当てます。
- なぜ、惰性で維持されてきた古い戦略を捨て、新しいパラダイムシフトを模索し、実際に役立つ新たな戦略を開発する必要があるのでしょうか。
- 読者の皆さんは、自分(あるいは自分の組織)のバナナを特定することができるでしょうか。
注意したいのは、変化を遂げた後には、さらに新たな局面が存在する、ということです。つまり、変化を起こすだけでは十分とはいえないのです。 たとえ長年の経験によって、パラダイムシフトを起こすことに成功しても、たとえ企業の基本的な誤った前提をいくつか変えたとしても、TOC全体プロジェクトで前例のない成果を上げたとしても、新しい現実が到来すれば、すべての変革は危険にさらされることが分かっています。
不確実な現実に確実性を押し付けることはできません。時間が経つにつれ、状況は変化します。市場からの要求は変化し、原材料の入手状況と価格は変化し、新規参入者や新技術が登場し、さらに多くの変化が起こるでしょう。TOCプロジェクトでは、TOC流の思考法を企業に教えようとしています。不確実性に対処するためのツールを提供することで、実際にその会社に知識を移転しているのです。しかし、経営者が状況の変化に直面したとき、その最初の反応は、古い習慣に戻ることです。その古い習慣は過去にうまくいったのでしょうか? いいえ。しかし、それでも船が揺れ始めると、本能的に元に戻ろうとするのがわかります。したがって、私たちはさらなる質問と、それに答えるためのプロセスやツールを確立しなければなりません。すなわち「どのように変化を継続させるか?」という質問です。
こうして、元の「変化の3つのステップ」に新たに2つのステップを追加する必要があることに気づきます。
すなわち、新たな5つの変化のステップとは、
- なぜ変えるのか?(追加されたステップ)
- 何を変えるか?
- 何に変えるか?
- どのように変えるのか?
- どのように変化を継続させるか?(追加されたステップ)
となります。
- [次へ] 第2章 なぜ変えるのか?
*掲載した本コラムは、弊社会長ヤニフ・ディヌール(プログレッシブ・フロー CEO)が過去に記した英文コラムをプログレッシブ・フロー・ジャパンが編集、日本語訳したものです。
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