長年の経験から、全体的なTOC改革を実施することで、企業に新たな成功の現実を創り出すことに成功したとしても、状況が現実(または現実の認識)に変化をもたらしたり、利害関係者の期待に変化が生じたりすると、すべての進展がリスクにさらされることは明らかです。
経営陣が現実(あるいは現実の認識)の変化に見舞われると、第一の反応は古い習慣に戻ることです。古い習慣は過去に通用したのでしょうか? おそらくそうではないでしょう。そもそも、これが変化を求める主な要因の1つだったのです。一方、新しいTOCメソッドは、前例のない結果をもたらしたでしょうか? 答えはイエスだと仮定します(前例のない結果をもたらしたことを証明する例はたくさんあります)。 しかしそれでも、ボートが揺れ始めると、直感的に後戻りしたくなるのが明らかです。したがって、私たちはさらなる質問と、それに答えるためのプロセスとツールを確立しなければなりません。その問いとは、変化を持続させるには?です。
変化を持続させる方法は、次の3つの異なる要素に分けられます。
- 現実をどのように測定・観測するか
- 移り変わる現実に合わせて解決策をどのように微調整するか
- 現実の課題に直面したときに古い習慣に戻ろうとする反動にどのように打ち克つか

すべての企業は業績と財務を測定します。しかし残念なことに、すべての企業が適切なタイミングで適切なものを測定しているわけではないのです。正しい測定とは、その企業の顧客にとって最も関連性の高いパラメータが何かを真に理解することです。例えば、再販業者向けに(在庫から)販売している企業にとって在庫回転率は最も重要な指標ですが、取引先における自社製品の在庫回転率を測定することはめったに見られません。また、スループット・ダラー・デイズ(TDD:Throughput Dollar Days)を測定している企業もめったに見かけません。TDDとは、(プロジェクトやA型の組立工場のように)信頼性が顧客の最も重要な尺度であるような際に、当初の約束期日と比較した納期遅れのドル換算値です。
さらに、測定は長い間隔で行われ、企業が対応するには長すぎることが往々にしてあります。「企業が市場と連動する情報の閉じたループを持たなければならない」という理解は、一般的な慣行として見受けられるものではありません。適切なタイミングで適切な測定を行うことは、問題が発生した時点で企業が対応し、必要な回復計画を立てるために必要なことであり、問題が危機的状況になってから対処することを余儀なくされるものではないのです。
正しく測定することのもう一つの側面は、その結果を社内に伝えることです。
変化を持続させるために私たちは、常にあらゆるレベルで、社内で賛同してくれる人を求めています。 組織全体で結果を共有する手段を使うことで、変革の成功を伝え、変革に対するコンセンサスを強化することができます。この手段はダッシュボードと呼ぶことができます。
しかし、日次、週次、月次のダッシュボードを正しく表示するだけでは十分ではありません。 適切なタイミングで正しい計測を行い、荒波の中で航路を修正することによって船舶をコース上に保つことは、以前は知られていなかった氷山が進路上に漂着し、実際に進路を変更する必要が生じたときには、役に立たないからです。現実が大きく変化し、当初の想定がもはや妥当でなくなるかもしれないことに備え、最初の解決策で設定した前提を確認する必要性があるのです。
変化する現実の中で解決策の妥当性を確認する(また、企業がどのレベルまでTOCプロジェクトを正しく実施しているかを確認する)プロセスが「監査」です。
どのように監査を成功させるかについては、いずれまた稿を改めるつもりですが、監査を実施することを決めたならば、以下のテーマについて検討することをお勧めします。

総合的なTOCプロジェクトでは、会社の成長、安定、調和を劇的に向上させることを目的としています。したがって、会社の財務状態(成長しているか、どの程度のペースで成長しているか、など)だけでなく、傾向(安定のために必要なインフラを構築しているか、などのトレンド)もチェックする必要があります。そのためには、戦術を適切に実行したかどうか、過剰生産能力が明らかになったかどうか、DDP(Due Date Performance:納期順守率)が改善されているかどうか、在庫回転率、スループット・ダラー・デイズ、その他の測定値が会社を大きく変えることを可能にしているかどうか、モニタリングする必要があります。
最後に、調和(不調和の表れ、口に出したり出さなかったりする対立)を検討することも必要であることを、ご指摘したいと思います。
不調和が存在する場合、それはプロジェクトの有効性を脅かすものとして考えなければなりません。プロジェクトの外側に、私たちの集中力をそぐような対立はないでしょうか。時間が経っても対立が続くようであれば、私たちのプロジェクトは対立の一部となってしまい、会社にとっての解決策ではなくなってしまうでしょう。監査の実施に関して稿を改めると申し上げましたが、そこではミステリー調査のようなツール、ローカル対グローバル最適の検討、そして今日私たちが使用しているその他の関連する思考プロセスについて説明する考えです。
なお、ダッシュボードについては、(TOCの指標ではカバーできないものの)非常に重要な早期警告となる追加的なシグナルを無視しないようにするべきです。例えば、キャッシュフローが低すぎる、優秀な人材が会社を去りすぎている、新たな競合他社が出現した、競合他社が市場や新技術を提供するようになった、などの問題がそうしたシグナルです。
最大の課題は、この変化をいかに制度化するか、つまり、この先何年にもわたって、新入社員や、現実のあらゆる変化に対して、会社が真にTOCの考え方を採用していることを約束する文化をいかに創り出すか、です。
このような企業文化の変革は、あらゆる階層での継続的改善を意味するPOOGIを推進する学習する組織を確立すること、そして、あらゆるレベルのマネジメント職が統率し主導する3つの基本行動すなわち、非難しない、複雑さを上に移譲する(助けを求められる環境づくり)、論理の活用を採用することで達成できます(詳細は後述します)。

従業員にチームで仕事をさせ、TOC全体プロジェクトで行われたすべてのプロセスや変更を文書化してみましょう。このような個人的な関与は、それが「私たちの」変化であるという観念を生み出し、賛同者を増やし、さらに新人がこの会社のやり方を学ぶベースとなります。
また、認定資格を持つ社内TOCスクールを設立してみてください。より広く、より深いTOCの知識と理解を身につけるための基盤を構築してください。なぜなら、必要な解決策だけを訓練していると、現実との乖離(必然的に起こります)が導入の軌道を狂わせ、古い慣行からなるコンフォートゾーンに会社を押し戻してしまうためです。TOCの考え方を真に理解することによって、企業が新たな課題に直面し、TOCの旅を続けるために必要な変革の推進を可能にします。
さて、前述した行動の変化をもたらす3つのポイントについて説明します。
- 複雑さを上に委譲する – 私たちは時として、自分の権限レベルでは解決できない現実の問題に直面することがあります。ただ多くの企業では、助けを求めることが弱さの証拠とされています。「問題」を隠さず、むしろ助けを求めることを奨励する文化は、正しい職場環境を約束するものです。人々はそれを悪用せず、管理職はリーダーシップを発揮し、「問題」の原因となっている流れ(フロー)の乱れを真に解決する機会を得ることができます。
- 非難しない - 「人は善なり」。 マネージャーや労働者、サプライヤー、あるいは別の「サイロ」といった誰かを非難することは、会社を前進させませんし、助けるものでもありません。人は私(たち)を傷つけるように調整されていません。非難する人はおそらく、私たちが理解できないようなある種の行動をとるような基準で測定をされているのでしょう。衝突を言語化し解決するためにTOCのクラウドを用いることは、変化を持続させるために採用しなければならない労働倫理です。会社は間違った測定のために間違った行動を推進している可能性があるため、「個人のパフォーマンス測定」を見直す必要があります。
- 論理の活用 - 現実を分析し、核心的な問題を見つけ、集中の5ステップを用いて制約に注意を集中させること(すなわちTOCの巨大な知識の海を使うこと)が、私たちに考える力を与えてくれます。直感は非常に重要ですが、それは論理的な道具と一緒に使う場合に限られます。ゴールドラット博士の主たる教えを思い起こしてみてください。明晰に考えるためには、「現実は複雑であり、対立はなくならず、人は必ずしも善良ではなく、私たちはすでに知っているのだ」といった、私たちに染みついた認識を克服する訓練をしなければならないこと。そして、どんな状況も大幅に改善することができる、ということを。
それではあらためて、「人は変化に抵抗するのか?」という最初の問いに戻りましょう。ゴールドラット博士は、人は生まれながらにして変化に抵抗することはない、という結論に達しています。人が(多くの場合、合法的に)抵抗するのは、提案された変革がもたらす利点(組織的にも個人的にも)を明確に理解できない場合だけです。ゴールドラット博士が私たちに与えてくれたツールやテクニック、そしてTOCコミュニティによる追加や改良によって、私たちは今、ビジネスにおいてより良い方向へのスムーズな変化を保証するためのすべてのピースを手に入れたように見えるのです。

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*掲載した本コラムは、弊社会長ヤニフ・ディヌール(プログレッシブ・フロー CEO)が過去に記した英文コラムをプログレッシブ・フロー・ジャパンが編集、日本語訳したものです。
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