稼働率の変動幅が大きい理由
弊社のコラム、「貴社の「2024年問題」どのように乗り越えますか?」#1および#2では、中小運送業界における現在の状況や事業者の方が抱える望ましくない結果(UDE)の例を可視化し、因果関係を図(現状ツリー)に整理しました。
第3回となる今回は、中小運送業界を取り巻く状況や問題を打開するうえでポイントとなる、顧客の真のニーズを探り解決に向けたアプローチを示します。
運送業の収益は、品物をどれだけ積載しているか(積載率)、トラックなど設備がどれだけ稼働しているか(稼働率)、および仕事の受注単価に主に依拠します。現状ツリーからは、品物を運ぶトラックの稼働率の改善と、取引先からの受注単価の引き上げが、スループット(\(
=\)売上\(-\)真の変動費\(
≑\)限界利益)の向上またはキャッシュフローの創出に重要であることが読み取れます。人材の確保・育成や設備投資、M&Aを含む将来の成長に必要な原資や担保となります。
収益要因のうち、稼働率の変動幅が5〜8割と大きいことが記されています。5割の稼働率を仮に1割引き上げることができれば、事業に及ぼすプラスのインパクトはかなり大きいといえます。 稼働率はなぜ安定しにくいのでしょうか?
因果関係をさかのぼると荷主からの注文(需要)の変動が読みにくいことが、その一因にあります。天候要因のほかに、メーカーが荷主である場合は、メーカー自身も需要の変動が読み切れず適切な生産量を見込むことの難しさが挙げられます。
中小運送会社は、上下する需要に対応するべく人材や設備をすべて変動費化するわけにはいきません。業務には運転や積み下ろしなどの技術を含めて専門的なスキルと経験を兼ね備えたプロのドライバーが必須です。繁忙期にはドライバーは引く手あまたとなり、スポットで都度集めることは容易ではありません。需要に追いつかない場合、注文を断らざるを得ないこともあります。そのため自社でそれなりのリソースや設備は常に確保しなければなりません。しかし逆に、需要が自社のリソースを下回る時期は稼働率が落ち込みます。
「あらかじめ市場からの需要がより正確に予測できれば稼働率の変動幅が小さくなりそうだ」という見立てもありそうです。さて、それは問題の解決に向けた効果的なアプローチになるでしょうか?
荷主を儲けさせるには?
スループットの向上またはキャッシュフローの創出において、受注単価を引き上げることも重要です。世界的にはインフレ圧力が高まっており、日本でも賃金の引上げを企業に求める声があがっています。とはいえ、取引先との関係を損なわないために「取引先に対して値上げしづらい、価格を転嫁しにくい」という声も耳にします。
もし取引先である荷主(製造業を含む)を儲けさせることができれば、値上げ交渉を切り出しやすい雰囲気が生まれることが予想されます。

「でも、社外の荷主を儲けさせるなんて、取引先がどうやってできるの?」と思われるかもしれませんね。
荷主を巻き込むには、荷主の本質的なニーズに応えることがポイントです。そのニーズとは、荷主(メーカー)が、顧客(エンドユーザー)が必要とする品物やサービスを必要なタイミングで必要な量だけ提供できるようにしたい、ということです。実現すればメーカーは過剰な在庫を抱えることも欠品でクレームを受けることもなくなり、顧客の満足度も大幅にアップするでしょう。
ここでポイントになるのが、荷主と顧客をつなぐという運送業の果たす役割です。
「常識」を疑ってみると
荷主がメーカーである場合に、エンドユーザーは宿泊施設やオフィス、行楽施設などが考えられます。しかしこうしたエンドユーザーとの接点がなければ、市場(顧客)における需要は、販売代理店からのフィードバックなどがない限り、なかなか正確には分かりません。多数の不特定の顧客を相手にすればなおさら、どれくらいの需要が発生するかが分かりづらくなり、需要変動の振幅も大きくなる傾向にあります。
また、物流は一般に業務を請け負う複数の運送会社が連なるサプライチェーンにより構成されています。そのサプライチェーン全体にどれくらい品物の在庫があるのか、という状況も見えにくくなります。
ここで注目したいのは、顧客の接点となる運送業が果たす情報のハブ拠点としての機能です。こうした情報は十分に活用されているとはいえません。もしそれらの情報を荷主が活用し、顧客側の在庫状況をより精緻に把握することができれば、どういうメリットが期待されるでしょうか?
実需に基づかず未来を予測しようとすれば、長期にわたるほど予測にばらつきが生まれて精度が低下します。明日の空模様を予測するより、1週間後、1カ月後、半年後の天候予測が難しいのと同じなのです。長期になればなるほど誤差は大きくなります。需要予測が外れるのはごく当たり前のことなのです。

「そうはいっても、顧客から情報を得るなんて、いま交わしている取引契約の範疇にはない」「相手先からも面倒だと断られるだろう」といった指摘が出るかもしれません。けれども実はお互いにメリットが得られないでしょうか?
もし顧客に納品した品物などを実需のデータとして把握し、荷主と適切に共有することができならば、荷主にとっては適正な生産量と在庫水準が実現しませんか? また顧客にとっても満足度の向上につながるメリットが生まれないでしょうか?
情報拠点としての運送会社の機能との連携強化を通じて、荷主や顧客が在庫管理に割いている現在の労力やコストがより少なく抑えられるかもしれません。
問題解決の検討では思い切ってこれまでの「常識」を疑ってみることも大切です。
「2024年問題」を解決する鍵は
さて、3回にわたって業界分析を通じた問題の構造の可視化についてみてきました。さらに可視化された内容から問題解決のポイントを考えてみました。
物流業界に限らず、他のさまざまな業界にも当てはまる印象を持たれたかもしれません。 あらためて問題の可視化と解決方法の着眼点についてまとめましょう。
- 問題となっている現象や状況を俯瞰して列挙する
- それぞれの原因と結果をつながりで整理する(納得がいくまで書き直してよい)
- 「システム」における制約を見つける(法改正や状況の変化に従い過去の制約はもはや制約ではなくなっているかもしれない)
- 制約を最大限活用するためにサプライチェーンで自社とつながりをもつ取引先(顧客やエンドユーザー)の真のニーズを探る
- 対策を出す場面では思い切って常識を疑ってみる

「取引先を巻き込むことは難しい」と思われるかもしれません。そんなときは相手が求める真のニーズを把握することが、問題解決に貢献する糸口になるでしょう。
あらためて、「2024年問題」を克服する鍵はどこにあるでしょう? ひょっとすると「今の状況は変えられない」という思い込みや、過去の経験から培われた常識が最大の制約になっているかもしれません。今回のコラムが皆さんにとって問題解決のヒントになれば幸いです。
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