プログレッシブ・フロー・ジャパン(PFJ)のシニアコンサルタント 岩崎 雄二です。これまでメーカーの社員として、またTOCコンサルタントとして、複数の企業における業務改革を推進・支援してきました。想定以上の成果を挙げられたこともあれば、思い描いた手応えが得られなかったこともあります。

その時々全力を尽くしたつもりでも「あのとき、もっとこういうアプローチをすれば異なる成果が得られたのではないか」と思い返すことは少なくありません。どうすればよかったのか。いまだから言える私なりの考えや気づきを前回コラムに続き、お伝えします。変革に取り組む皆さんが壁を乗り越えるヒントになるとうれしいです。

再就職先の企業で見た在庫の山

40年務めたメーカーに区切りをつけた私は、業務改革の経験を生かしてTOCコンサルタント会社の一員になりました。そして、複数の企業の業務改革の支援に携わりました。そのコンサルタント会社も還暦過ぎまで勤めて退職しました。

その後、少し遊んでいましたが、ふと「CAD/CAMを学び直したい」という衝動にかられます。おそらく眠っていた「パソコン小僧」が疼き出したのでしょう。 

近所のハローワークで講座を探して申し込み、受講してしばらくすると、求人していた福岡県に拠点を置くものづくりの企業から声がかかりました。誘われて工場見学に行くとそこは20代、30代が活躍する若い企業でした。トップからは、あなたの経験を活かして若手人材の育成に協力してほしい、と頼まれました。この老骨にできることはあるのかなと悩みつつも、やり方はこちらに任せてくれる、CAD/CAMも修了したあとで、という条件で折り合い、再就職を決めました。

あらためてその工場内を歩いていると、在庫が溜まっているところがあります。聞くとある製品ラインでは、計画された生産量に追い付かないために、毎朝操業開始時刻を2時間繰り上げている。それでも間に合わず、夜遅くまで残業が発生したり、休日返上してフル稼働させたりするなど、苦心していました。 

調べると、割れやすい難削材を段階的に薄く研削する3つの工程の生産能力が噛み合っておらず、途中で仕掛品が溜まり、最後の工程で辻褄を合わせるような作り方でした。TOC(制約理論)でよく登場する例のやつです(関連記事:正解がみえづらい時代を生き抜く術 #5 – カイゼンが頭打ちになったなら)。 

「待ち時間」が発生する真因を突き止める

そこで、現場の各工程の作業を分解し、それぞれの時間を測り、タイムチャートに表してみました。すると、「フル稼働」といいつつも、それぞれの担当者が作業できない「待ち」の時間が複数存在します。理由はさまざまですが、たとえば、前工程における工作機械の能力が低いこと、また、担当者が持ち場を離れるような比較的重要ではない作業が発生していること、などが見えてきました。

そこで、現場の担当者たちにタイムチャートを見せながら、「それぞれの作業はなぜ行う必要があるのか」「待ち時間を減らすために何をすればよいのか」じっくり耳を傾けながら一緒に考えました。

その上で、各工程で使う工作機械の割り当て方を変更し、自分の持ち場を離れず作業に専念するようにしたところ、残業時間は減り、就業時間も従来通りの時間帯に戻すことができました。 

このとき、機械の作業順番を入れ替える必要があったため、部品を並べ替えるための簡易な設備(治具)など作るのに少々時間とお金はかかりましたが、新規の機械は一切入れず生産設備そのものは従来あったものを変えていません。 

子どもたち

ただ、「残業時間がなくなると困る」という社員の声があることがわかりました。養う家族が多く、お金を少しでもたくさん稼ぎたい人がいました。別の担当者は、好きな趣味に投じるお金を欲していました。残業代が減れば手取りが減ります。そうした思いが知らず知らずのうちに生産リードタイムの長期化や在庫の増大を招く原因になっていたのかもしれません。 

そこで会社とも相談の上、残業代に相当する金額を完全にゼロにすることにせず、別の作業も取り込んでもらうようにしました。 

かつての後悔を糧に

私はかつてメーカーの事業部全体におけるTOC導入で、現場との合意形成や協力の取り付けがうまく進まず、期待した成果が得られない苦い経験を味わっています。そのときの後悔もあり、コミュニケーションは決して得意ではないものの、当事者の思いを本人から直接聞いたり、周りの人に「あの人はどんなことが好きなの?」と訊ねたりして、その人が変化を阻む理由をできるだけ取り除くように心がけました。歳をとって少し丸くなったのかもしれません。

さて、話を再就職先のメーカーに戻しましょう。前述した一連のカイゼンの結果、残業時間を大幅に減らしつつ、フル稼働させなくても十分に納期に合わせて生産できるようになりました。仮に、フル稼働に近い状態に持っていけば、受注できる生産量をさらに増やせる状態であることもわかりました。 

そういえば、工程を見直す前のことですが、仕上げ加工を担当する男性社員が、部品が図面寸法と適合しているかをチェックする仕事を兼務していました。そのため本来すべき仕上げ加工に専念できず、生産リードタイムが伸びる一因になっていました。いわば、彼が全体の工程における制約(希少リソース)になっていたのです。そこで彼の能力を最大限活用するために、社内の事務部門に頼んで新人の女性社員2名に、寸法確認作業を手伝ってほしいとお願いすると、ありがたいことに助太刀を得られました。

これがリードタイム短縮と在庫削減に大きな効果を発揮したのですが、あとになって、その仕上げ加工を担当する彼が、助太刀してくれた女性の一人と入籍したと知り、びっくりしました。人の縁というのは、どこでどうつながるかわからないものですね。

チャレンジし続ける組織に変えるためのヒント

さて、私の体験談を述べてきました。皆さんが組織で業務変革をやってみようとしても、なかなかうまくいかないということがあります。合意形成をする、といっても本当にその人が十分に納得していないと、やはり動いてくれません。一見うまくいっているようでも、こちらが「納得しているだろう」と思い込んでいるだけ、ということもありえます。 

変革する風土が根付かない」「単発で終わってしまい続かない」という悩みをしばしば聞きます。ある一人のリーダーの号令で組織が動いたとしても、そのリーダーがその組織を離れると変革前の状態に戻ってしまう。そんな例を私も多く見てきました。次代を担うリーダー人材をどう育てるのかは変革の鍵を握るテーマです。 

変革とは、会社や組織、風土を変えていくことです。そのときたった一人の孤立無縁状態では、何もできません。 

「相手を説得する優れたコミュニケーション能力が必須なのか」と思われるかもしれませんが、そういうわけでもありません。私自身はそういうのが苦手なほうです。焦らずに時間をかけて相手を知っていくことが大切だと思います。周りの人にさりげなくその人の評判や噂を聞いてみてもよいかもしれません。 

初めは「敵」や「変わり者」とみなされるかもしれませんが、その人が反発する理由を理解したり、その不安を取り除いたりするなかで信頼できる味方になってくれることもあります。また、その人が次代を担う現場のリーダーに育ってくれるかもしれません。 

私の経験が少しでも参考になれば幸いです。 困ったときは一人で悩まず、プログレッシブ・フロー・ジャパンにお声がけください。

シニアコンサルタント 岩崎 雄二
岩崎 雄二(いわさき ゆうじ) 
プログレッシブ・フロー・ジャパン株式会社 
シニアコンサルタント

【岩崎雄二(いわさき ゆうじ) プロフィール】TOTO株式会社にて、生産技術・生産システムSE・生産管理・購買管理・製造に携わる。事業部へのTOC導入に際し、推進組織として結成された業務改革推進室室長として、会社・組織・風土を変えることに奔走。TOCを現場で実践し、制約に集中して流れを良くすることだけで、大幅なリードタイム短縮と在庫削減を達成した。

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