直接部門の1人当たり売上高が40%向上した理由とは
会社や部署の中には、その全体のパフォーマンスを左右するような高度な専門スキルや経験値を持つ人が少なからず存在します。例えば、生産現場の場合、その人でしかできない卓越した加工や組立などのものづくりの技能を身につけた人材が、顧客の高度な要求を形にする上で欠かせない役割を果たしていることは少なくありません。非製造業などにおいても同様です。
こうした人々は、希少リソースとも呼ばれます(希少リソースについては、併せてこちらのコラム「キャパシティが足りず受注をあきらめざるを得ない?」もどうぞご覧ください)。しかし、彼ら/彼女らが本当にやるべきことに集中できる時間は就業時間の中でもごくわずか、ということが少なくありません。弊社TOCコンサルタントが関与した大手メーカーでもそうでした。本業以外の色々な仕事をこなさなければならないことが理由です。高度な専門スキルを有する人材の抱えるさまざまな雑務を、同じ部署の誰かが肩代わりできればよいのですが、他の社員も皆忙しくて手を回せません。影響はプロジェクトの遅延として顕在化しました。こうした人々の残業時間も他に比べて突出しており、TOCの観点では、彼ら/彼女らが希少リソース、すなわち制約(constraints)になっていることが、部署における1人当たりの売上高の低下につながっていたのです。
この制約を解消するにはどうすればよいでしょうか。実は、この鍵を握るのが間接部門です。
TOCコンサルタントがこちらの大手メーカーで、希少リソースが組織の制約になる事象について間接部門に説明すると、それをヒントに間接部門のメンバーが自主的に社内の直接部門における制約を実地調査し、「その人にしかできない仕事」と「そうではない仕事」を仕分けました。そして、後者の仕事のうち「10%」分を間接部門で引き受けることにしたのです。その活動の結果、希少リソースだった人たちしかできない仕事におけるパフォーマンスが向上し、ひいては直接部門における1人当たり売上高40%向上を達成しました。
間接部門のある担当者は、直接部門のメンバーから「プロジェクトの遅延が解消され、残業時間も減った。おかげでみんな助かった。ありがとう」と感謝されて少々面食らいました。この担当者は「間接部門の1人として長年勤めてきたものの、こんなに褒められたことはなかった!」と喜びを噛み締めました。
特筆すべきは、経営層の変化です。それまでは事業の選択と集中、またはリソースの効率化を掲げ、収益に直結しない間接部門はできるだけアウトソーシングして社外に出す、社員数も減らす、という考えでした。しかし、その方針を転換したのです。
ある役員はこう言いました。「間接部門のモチベーションの低さの原因は経営にある。かつては彼ら/彼女らにどういう情報をインプットすればいいのか、経営側がわかっていなかった。そのことがメンバーのモチベーションが上がらない、そして成果も上向かない理由にあった、と今では考えている」
こうした取り組みと成果をきっかけに、間接部門のメンバーの意欲は向上し、ほかにも制約になっている社内の部署や人々をサポートしようと積極的に動き始めました。
間接部門の力を掛け合わせる
前述の大手メーカーの事例から得られる示唆はいくつかあります。
- 制約となる希少リソースが仕事に専念できる環境づくりが売上・利益、スループットの向上につながる
- しかし、自部署内の活動だけでできるカイゼンや変革には限界がある
- 間接部門の力を掛け合わせることで、自部署だけではなしえない改善やスループット向上、付加価値創造の可能性やチャンスが見えてくる
間接部門を削ることは、スループット向上のための貴重な選択肢を自ら手放すことにほかならないのです。
振り返ると2020年の東京オリンピック開催に向けたテレワークの推進や、ホワイトカラー・エグゼンプションの導入、残業時間の削減活動など、ここ何年も「働き方改革」が叫ばれてきました。
なかには残業時間を減らそうと「すべて部署の残業を認めない」と一律に決める会社もあります。すると、かえってプロジェクトが遅延して納期遵守ができず、売上や利益が落ちることになりかねません。売上が落ちて、コストカットしなければならないから、と間接部門を削ると、人件費は削られて財務諸表上ではスリム化します。しかし、その結果、間接部門の力を掛け合わせることで得られる、自部署だけではできなかった、改善や変革の機会を逸してしまっているケースが非常に多くみられます。
人間のカラダにおいて「太り過ぎ」は良くありませんが「痩せ過ぎ」でも、いざという時に力が入らず、思い切ったパフォーマンスが発揮できませんよね。
ビジネスでもコストを削ろうとする前に、いまいちど会社全体の制約がどこにあるか、それを最大限活用するために何をするべきか、冷静に俯瞰してみるとよいでしょう。
コストセンターからスループットセンターへ
さて、間接部門が、社内の制約を探し、希少リソースのポテンシャルを最大限に発揮させる際の大切な留意点を1つお伝えいたします。
社内の各部署の課題を一覧化したうえで、優先順位をつけて取り組むということは短期間で効果を出すために重要なポイントです。ただし、そこで見落としがちなことがあります。
あるメーカーの間接部門では、直接部門から引き受けられる仕事を探すために各ラインや関係部署などに調査を試みたところ、合わせて約60の項目がリストアップされました。 このリストをもとに絞り込みをかけようと、上層部の1人の役員に相談すると、彼は次のように指摘しました。
ある製品の開発部隊からのリクエストがリストの中に見当たらないね。
指摘を受けて間接部門が調べるとその部署は、間接部門からの調査に回答したり、リクエストを返したりする余裕さえないほど多忙を極める状況でした。この製品開発チームによくよく話を聞いて分析すると、この部門の制約を改善すれば極めて大きい効果が見込まれることがわかってきました。そこで間接部門のメンバーはあらためてリストを見直しました。そしてまずは、この製品開発部隊の負荷軽減やサポートに集中することに決めたのです。その結果、製品開発において大きな改善効果を得ることができました。
肝心の希少リソースが含まれないリストに優先順位をつけても的外れになってしまいます。このように、課題の抽出にあたってはそもそも課題が見えにくい場合がしばしばあるので、検討の際にはぜひ注意してみてください。
さて組織における高いスループットを生み出す上で、間接部門の貢献が欠かせません。その意味では間接部門はコストセンターではなく、TOCの観点でいえば「スループットセンター」と呼ぶのがふさわしいでしょう。
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