めまぐるしい速さで変化し、先々が見通しにくい時代。生きていくために必要な資金を稼ぐ(儲ける)スキルとして、考える力行動する力変革し続ける力の重要性をこちらコラムで指摘したのは、プログレッシブ・フロー・ジャパン株式会社のプロジェクトディレクター、河野 全克(かわの まさかつ)です。今回は考える力と切り離せない行動する力について訊きました。 

行動する力を邪魔しないプライドの置き場所  

―― 問題解決に必要な「考える力」は、誰もが持っている力であり、日々の決断でも知らず知らず使っているということでした。また、考える力は前提や理由などの組み立て(ロジック)を意識して言語化することでさらに磨かれ、チームで共有すれば組織の力が高まる、と。

そうです。しかし、考える力を活かすためにはもうひとつ必要な力があります。それは、行動する力(=実行力)です。せっかく論理的に考えて生まれたアイディアや妙案も、実行に移さなければ何の成果も得られません。タイミングを逸してしまうと考えた時間が無駄になってしまうことさえあります。

―― 気になる人をデートに誘いたい、と思っているうちに機会を逃したほろ苦い経験を思い出します。

わかります(笑)。もし誘って「断られたらどうしよう」「変なふうに思われてこのあと話しかけづらくなったらイヤだな」など逡巡し、自分自身にブレーキをかけてしまうことはありましたね。まだ起きていない未来を想像し、考えたことを行動に移せない(移さない)ことはしばしばあります。 

一方で、ある人が考えた末に選択した行動について「それはまずいんじゃないの」「こうしたほうがいいでしょ」と行動してもいないのに意見する評論家タイプの方もたびたび見かけますね。

論理的に考えた行動を実行するために、 私がメーカー時代に意識していたことは「プライドの場所」「交渉する力」「諦めない力」の3つです。それぞれご説明しましょう。

まずは、プライドの場所。これは自分自身のプライドをどこに置くか、ということです。
「失敗したくない」「批判されたくない」「意見されたくない」「上司に何か言われることが面倒」・・・、そういった目先のマイナス要因を避けるような判断基準に自分のこだわりや矜持を置いてしまうと、それより先に進むのが難しくなります。

当時、私のプライドは目標を達成するということにしかなかったので、周りの人にどう見られるか、何か言われているか、などに関心はありませんでした。

そういう意味で、知人の営業マンをリスペクトしていました。彼らは顧客の信頼を勝ち取り、売上を伸ばすことにプライドを置いていました。顧客や製造部門に頭を下げるのを意に介していませんでしたね。そのことを知ってか知らずかわからないですが、そういう営業担当者を罵倒して頭を下げさせるような人もいました。少しばかり怒りと情けなさを感じたことを思い出します。プライドの場所を間違うことは、(自身の行動だけでなく)チームメンバーの実行を妨げることがあります。

相手のメリットを考える交渉力

次に必要なのは、交渉する力(=交渉力)です。交渉というと難しく感じるかも知れませんが、子どもの頃から知らないうちにやってきたという人は案外多いかもしれません。

私の少年時代を思い返すと、お小遣いゼロだった小学校低学年のころは、玩具の入ったガチャガチャやお菓子を買うためのお金が欲しかったので母親と”交渉”し、家事手伝い(風呂掃除や皿洗いなど)をすることで1日10円の報酬を受け取って駄菓子屋に通ったものです。高学年になってからは新聞配達を始めました。大流行したファミコン欲しさに、できるだけ多くの軒数に新聞を配らせてもらおうと、新聞販売店の店主と交渉しました。子どもたちは大人の背中を見てまねて、それなりに”交渉”のやり方を知っています。


皆さんは、子どもたちに対して「勉強がんばったらご褒美あげる」と言ってみたり、または親などに対して「運動会で一番になったらレストラン連れて行って」とねだったりした記憶はありませんか?

ここで気づいてもらいたいことは、交渉とは一方的な指示や命令ではないということです。ビジネスの世界も同じです。

Aさん「緊急でこの製品を投入して」
Bさん「他の製品の計画に影響が出ます」
Aさん「それはダメ、でもこの製品をすぐに投入して」


この会話は「交渉」といえるでしょうか。

―― AさんからBさんへの一方的な話(指示や命令)でギスギス感が残りそうです。

そうですね。このやりとりの結果、AさんとBさんのどちらかの計画が遅れて調整が大変だったかもしれません。それでは、こんなやりとりに変えてみるとどうでしょう。


Aさん「緊急でこの製品を投入して」
Bさん「他の製品の計画に影響が出ます」
Aさん「そっちの製品は私の方で客先と相談してみるわ」
Bさん「こちらでもできるだけロスが少ないように考えてみます」
Aさん「例の製品の調整はうまくいったので投入進めて」
Bさん「わかりました、こちらも想定より半分のロスで済みそうです」

―― お互いの事情を考慮しながら、なんとか局面を打開することができたようですね。

あくまで一例ですが、交渉とはなにか、についての意味は伝わるかと思います。Aさんの依頼に対してBさんは、緊急投入に対応できない原因を取り除いてもらえるならば協力しようという気持ちになっているようです。交渉は相手とのコミュニケーションが大切です。「交渉を円滑にするためには何が必要なのか」「 自分は何をすればいいのか」を明確にすることは、お互い納得して仕事を進めるポイントです。​​​​

望んだ結果が得られない時には

―― とはいえ、交渉ごとや行動の結果がいつも思い通りに成就するとは限りませんよね。

もちろんです。何事も想定通りの結果か、想定を上回る結果、または、想定を下回る結果のどれかに落ち着くのは世の常です。いくら論理的に考えて行動したとしても、望んだ結果がいつも得られるとは限りません。

そんな中で注意したいのはメンタルの落ち込みです。想定以下の結果が続いたとき、「今回もダメだった」と凹んで心身のスタミナが少しずつ削られていくと、やがて立ち上がることさえできなくなってしまうことがあります。そうならないために行動する力において重要な第3のポイントが、諦めない力(=スタミナをコントロールする力)です。

私の場合、上手くいかなかったときには瞬時に反省と分析をしたうえで、「上手くいかない方法」として記憶(記録)するようにしていました。それを活かして、次の局面では上手くいく確率を上げていった、という案配です。​

ーー>次回のコラムに続きます。 

河野 全克
河野 全克(かわの まさかつ) 
プログレッシブ・フロー・ジャパン株式会社 
プロジェクトディレクター

【河野全克(かわの まさかつ) プロフィール】SHARP(シャープ)を一躍メジャーにした液晶事業のサプライチェーンを長年牽引するとともに、顧客・サプライヤー・自社のwin-win-win(三方良し)により構築した調和の力で事業の発展に大きく貢献した。現場叩き上げだからこそ語れる失敗談やそこからの学びと成功体験、さらにTOCの合わせ技で、真にクライアントに寄り添うコンサルタントとして活躍中。奈良県出身。

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