企業経営におけるフロー(流れ)とは?
私たちを取り巻く現実は、時々刻々と変化しています。企業ではさまざまな経営資源を変換して利益(キャッシュ)を生み出しています。これはキャッシュフロー(Cash flow)と呼ばれます。
また、さまざまな天然資源やエネルギーは姿・形を変えながら私たちを取り巻く環境を絶えず循環しています。一見静止したように穏やかに見える状況の裏側には、激しい力と力のぶつかり合いや拮抗、目まぐるしい駆け引きがあります。刻々と変化する物質・エネルギーの流れや絶妙なパワーバランスの上に成り立っているといえます。
フローは、時の流れの中で変化しつづける企業経営から家庭、さらに道路の混み具合や窓口の待ち行列、そして人生のさまざまな局面にまで、必ず存在しています。そしていずれもキーとなる制約の影響から逃れることは困難です。

フローは物理的なモノの流れや変換過程だけではなく、情報やお金、人と人の関係など抽象的な概念や思考においても認められます。
プロジェクトにおけるタスク、個人的なアイデアの創出や意思決定に必要な指示、情報の流れなどは、時とともに推移するフローです。少し長いスパンでは、企業の経営戦略や戦術も、状況とともに見直していくべきものであり、そこにはフローがあります。
フローがスムーズであれば、企業経営ではリードタイムの短縮やスループットの向上につなげられます。逆にフローが乱れると、企業やサプライチェーンが持つ、本来のポテンシャルを発揮することができません。
そのフローの乱れ、とは、企業経営では次のような現象、病気にたとえると「症状」を表しています。
- 捌ききれない過剰な在庫、消費期限の迫った商品の廃棄、逆に売れ筋商品の欠品
- プロジェクトの遅延や納期順守率の低下
- 提供する製品やサービスに対する満足度の低下
- 工程間の連携や情報共有の不足、部門間の対立
- 連絡の行き違いや伝言ゲーム、指揮系統の混乱
- 手戻りとやり直しの増加、残業の長時間化、労働生産性の低下
・・・などです。
フローが乱れるのはなぜ?
企業経営やサプライチェーンは複雑なシステムです。企画、設計、生産技術、マーケティングなどの機能が企業内プロセスにあり、それらの企業体がサプライヤー(供給業者)、メーカー、流通業者などの役割を担って、商品やサービス、人財や金銭、情報などをやりとりし、最終的に顧客とともに市場を形成します。単純な足し算ではなく、シナジー効果のような創発的な現象も生じてきます。あまりに複雑かつスコープが広いため、議論が発散しないようにできるだけ分解して、それぞれの部分で改善しよう、最適化しよう、とする対応の傾向が見受けられます。
それらを否定することはしません。ただし、本来はもともと、地球環境における生態系のように、繋がっている(リンクしている)、1つの大きなシステムです。システム全体として見渡すと、ある部分で良かれと思って行ったリソースの再配置やフローの変更が、実は別の部分でキャパシティを超える大きな流量を作ったり、摩擦や疲弊を生じさせたりしていることがあります。
私たちが目の前の問題に絡みとられてしまいがちなのには、いくつかの理由があります。

1つは、私たちの慣習のなかに潜んでいます。振り返ると幼稚園からMBA(経営学修士)の講義に至るまで、私たちは子供の頃から、目の前に問題が出てきたらそれを解決する訓練を受け続けてきました。会社に行けば朝から晩まで問題への対処に次ぐ対処です。翌日もその翌日も対処の連続です。しかし、そのような働き方が逆に、システムに潜む本来の問題から目を背けさせ、冷静な思考を妨げるノイズを増やし、フローを枝分かれさせたり、別の流れを狭めたり圧迫したりしています。そのことに気づく余裕さえも多忙さゆえに失われているかもしれません。
部分最適化に向かうもう1つの理由には、複雑なものを敬遠したい、という恐れの心理があげられます。とはいえ一見、複雑なシステムも本質を突き詰めると、コア(核)にある問題の原因はシンプルだった、実はキーとなる制約はごくわずかなものだった、ということが往々にしてあります。表面上の複雑さに惑わされてしまうのです。
企業のマネージャー層は、日々眼前の問題解決に翻弄されがちです。目の前に問題があるのに解決する行動に出ないと「あの人は優秀なマネージャーじゃない」と批判されるのではないでしょうか。
地上の誰にとっても、1日の長さは24時間でしかありません。時間は等しく流れているといえます。その中で、細部へ細部へと意識を奪われ、もっともっとデータを集めよ、と急かされていると、かえって視野が狭くなり、問題の根本原因から遠ざかり、時間に追われるようになります。
フローを整えるには
フローの乱れを抑えるポイント、革新的な流れを作るための考え方を整理します。
- パースペクティブ(視座)
フローの乱れとは前述のように「核となる問題」の現れに過ぎません。乱れを正すには、根本的な問題、問題の本質を捉えることが必要です。逆に、微に入り細を穿つように、ノイズに近づくと問題の本質を見失います。正しいパースペクティブとは、ノイズや表面上の現象や出来事の奥にある、本質を見抜く力、すなわち適切な視座を意味します。
TOC(制約理論)の観点では、全体の最適化やパフォーマンスの向上につながる部分、負荷や悪影響が及んでいる最も弱いリンク(=制約)を見つけることにフォーカスします。つまり重要なのは「どこ(where)を改善(improve)するべきか」にフォーカスすることです。どのようにして改善するか、という「how to improve」に気を取られがちですが、本質はそこではありません。
- 常識を疑い、成功体験をリセット

企業活動の担い手である人間の心理には一種の惰性(inertia)があります。Inertia(イナーシャ)とは物理学で、外力を加えられない物体の動き(慣性や惰性)を表しますが、不思議なことに人間の心理にもうまく当てはまります。現実はダイナミックに変化しています。その中で、過去にうまくいったやり方が通用する、と考えるほうが高いリスクを負いかねません。常識を疑い、過去の成功体験をいちど捨て、フレッシュな気持ちで臨むことが肝要です。過去の戦略や戦術が制約になっていることもあります。トップの描く戦略・戦術と、現場の考える戦略、戦術が噛み合っていないとフローの乱れにつながります。
- 不確実性への備え(バッファ)をマネジメント
組織の制約がフローにあるとすれば、人間の制約はどこにあるでしょうか。答えは1つではないかもしれませんが、私たちは、市場の変化や将来の不確実性に対する「恐れ」にあると考えています(こちらのコラム『「冬」の時代を暖かく過ごすには?(前編)』もご覧ください)。人の心に潜む恐怖や不安を取り除くには、できるだけ不確実性を減らすことです。そのための備え(バッファ)として、日頃から人材、資金、時間などのさまざまなリソースにある程度の幅を持たせ、その備えを常にマネジメントしておくことです 。リソースが逼迫すると選択肢が減り、目先の対処で手一杯になりがちです。状況に応じた臨機応変なバッファのマネジメントは、心理的な安全確保と、冷静なパースペクティブを持つことにつながります。
- 適切なテクノロジーの選択と活用

不確実性の高い時代、前例のない時代にあって、これまでの勘やコツ、経験則が必ずしも通用しなくなってきています。たとえば、サプライチェーンでは、グローバルチェーンや複数調達先の開拓と確保と、国内回帰などのローカルチェーンへ向かう動きが顕著ですが、需要や供給の不確実性に対応するにはそれだけでなく、適切な在庫水準と生産能力を橋渡しする、堅牢なITシステムが必要です。人間のある種の知能を凌駕する転換点(特異点、シンギュラリティ)を超えた、ともいわれるAIや、膨大なデータを分析するのに適した機械学習など最先端テクノロジーを経営のツールとして使いこなすことが必要になっています。
革新的な流れを作るために

さて、前後編にわたって、先々が見通せない「冬」の時代をどうにか暖かく乗り切るために必要なことを考えてきました。不透明な時代の中で、私たちの心にはしばしば不安や恐怖が顔を覗かせます。ただ、これまでの常識や経験則は捨てたとしても、希望や笑顔、目の輝きまでも捨ててはなりません。景気後退期は経営においてピンチですが、これまでにないチャレンジが可能となるチャンスだと捉えることもできます。
弊社の社名にある「Progressive Flow」(プログレッシブ・フロー)とは「革新的な流れ」を意味します。これからもみなさまとご一緒に、組織における新しい「流れ」を創出する挑戦を進められれば幸いです。
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