変化に富み、先々が見通しにくい不安定な時代。心細さや不安に駆られることもありますが、新たな挑戦を楽しめば、ピンチはチャンスになり、望む「安定」にむしろ近づくと指摘するのは、弊社コラム記事「正解が見えづらい時代を生き抜く術」でお馴染みのプログレッシブ・フロー・ジャパン株式会社 執行役員、河野全克(かわの まさかつ)です。経営環境を律する制約は変化し続けるがゆえに、カイゼンや変革も継続的に見直し・対応が求められます。一方、現場では過去の常識が足枷になることも。ものづくりの未来を考えるシリーズの2回目です。 

発明者の心の内を探る

ーー 前回のコラムでは、ものづくりにおける代表的な生産方式を列挙し、その多様化や進化が生じた大きな要因として需要変動への対応を指摘しました。今回は新たな生産方式を生み出した人々が「どのような心理でこのような発明にいたったのか」を考えます。

生産方式が多様化や進化を遂げる要因には大きな需要変動があると述べましたが、歴史を振り返るとその原因には、大衆や中産階級と呼ばれる人口の急増、インフレや世界恐慌のような不況、オイルショックのような供給網の混乱や原材料の逼迫がありました。そのような時代、多くの企業では「生産が追いつかない」「商品が売れない」「資金繰りが悪化している」といった危機に瀕し、世の中では倒産や失業が増えます。従前のやり方が時代が求める前提条件に合わなくなっているわけです。

ーー やむを得ず必要に迫られてがむしゃらになって取り組み、失敗も数多く重ねる中で、わずかに光明が見えてきた。 危機的状況下で、こうして生まれた新たな生産方式もありそうです(関連記事:「変化の中で永続する企業の条件とは(後編)」)  

まさしく必要は発明の母ですね。ただ、外的要因だけでは説明できない部分や、常識の範疇を超えて生まれたケースもあったと思います。たとえば、周囲から奇異に映るようなやり方を貫き通せる強い信念の持ち主や、変わり者と冷やかされても気にしない強いメンタルや個性、あるいは「gifted」と呼ばれるような突出した才能の持つ人の存在です。

実際に今日も、他社にはないビジネスモデルや商品・サービス力、開発・技術力など磨き、急成長を遂げたベンチャー企業のトップでそういった方は少なくありません。世の中を良くしたい、豊かにしたい、という高い志や野望、生き抜くという執念、アニマルスピリット、そのきっかけとなった生い立ちや環境が新たな生産方式を生み出す原動力になったはずです。

一方、「こうやったらどうだろう」と思って試してみたら案外うまくいって楽しくなり、ついついハマってしまった、というところから生まれた発明もあったのではないかと私は思っています。 

ーー 近年は、経営や業務を「戦略」「戦術」といった軍事用語で語るのではなく、未知なる世界への「冒険」と捉えたりゲームの要素を取り入れたりする観点がありますね。

私は、メーカー時代に、人事評価をする際には「当人が楽しかったどうか」を尋ねるようにしていました。楽しければ、いろんなアイディアが湧いてきます。 

つまらない職場環境であれば、働く8時間を我慢して耐えたり、余計なことを考えず思考停止して波風立てず無難にやり過ごそうとしたりする人が増えます。そんな環境で面白いアイディアが次々出てくるでしょうか。逆に、夢中になってしまって、気づけば時間があっという間に経ってしまった。あるいは、うまくいくかどうか五分五分。うまくいったら嬉しい、面白いだろうと思って仕事をすると、はたから見ると辛そうなことや失敗を経験しても、当人に訊くとあまりしんどいと感じていなかった、ということが珍しくありません。 

実は、メーカーに勤務していた当時、私の部署には、他の部署から使い物にならない、といって回されてきた人もときどきいました。でも、その人たちにもなにか能力はあるはず、と思ってその能力を活かせる場所を考えていました。能力を活かせる環境に身を置けば、生き生きとして働けるようになります。楽しく仕事をしてもらう環境を作るのも、マネジメント層の役割だと私は思います。 

変化に対する抵抗や反発を受けたときは

ーー 3つめの疑問は「生産方式の変革にあたって抵抗を受けなかったのだろうか」です。 生産方式の変革はすんなり言ったと思いますか

私は自分の経験から申し上げると、すんなりいかなっただろう、と考えています。

なぜ、今までのやり方を変えるんだ!

そのやり方だときっとうまくいかない

そんな声が上がったことを、私も思い出しますね。 

TOC(制約理論)にはチェンジマトリクスというツールがあります。変化をするメリット/デメリット、しないメリット/デメリットを4つのカテゴリに分類して整理したものです。その中で、「いまのままでいいんじゃないか」と考えて変化を拒む人は現状のメリットにしがみつく「人魚」、または、変化しないデメリットから目を背ける、「ワニ」に狙われた人に喩えられます。 

チェンジマトリクス

前述のチェンジマトリクスは、TOC以前の生産方式や生産管理の時代にはなかったツールですが、変化を拒む人々はいつの時代にも存在したはずです。ゆえにいまの時代ではビジネスの「常識」とされて、ビジネススクールや大学などのテキストに掲載されているような当たり前の考え方も当初は、激しい抵抗に遭ったことは想像に難くありません。その意味ではあのトヨタ生産方式でさえ「えっ」と違和感を持ったり抵抗を感じたりした人は当時、たくさんいたのではないかと思います。 

したがって、抵抗に向き合い、偉大な生産方式を切り開いていった先人のスタミナやタフネスは、余人には見当もつかない、とてつもないものだったと想像します。 

いま、組織や経営の変革でご苦労されている方は、そのことをちょっと思い起こしてみてもよいかもしれません。「たいへんなのは自分たちだけではなかったかもな」ーー。私もそんなふうに少し勇気付けられている一人です。 

ーー>次回はものづくりの未来をさらに考えてみます。

河野 全克
河野 全克(かわの まさかつ) 
プログレッシブ・フロー・ジャパン株式会社 
執行役員

【河野全克(かわの まさかつ) プロフィール】SHARP(シャープ)を一躍メジャーにした液晶事業のサプライチェーンを長年牽引するとともに、顧客・サプライヤー・自社のwin-win-win(三方良し)により構築した調和の力で事業の発展に大きく貢献した。現場叩き上げだからこそ語れる失敗談やそこからの学びと成功体験、さらにTOCの合わせ技で、真にクライアントに寄り添うコンサルタントとして活躍中。奈良県出身。

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