変化に富み、先々が見通しにくい時代。不安や心細さに駆られることもありますが、変革を楽しむことでピンチもチャンスになり、むしろ望む「安定」に近づけると指摘するのは、弊社コラム記事「正解が見えづらい時代を生き抜く術」でお馴染みのプログレッシブ・フロー・ジャパン株式会社 執行役員、河野全克(かわの まさかつ)です。経営環境を律する制約は変化し続けるがゆえに、カイゼンや変革は単発ではなく継続が求められ、その過程で弛まぬ業績向上やイノベーションが生まれます。しかし、現場では過去の常識が足枷になることも。先人たちがどのように乗り越えてきたのかを考えてみます。 

過去の常識や経験則との摩擦

ーー 「正解が見えづらい時代を生き抜く術 #7」で、個人や家庭、企業が生き抜くためにお金を得る(儲ける)ために必要な3つの力と、それを実践するうえで役立つTOC(制約理論)の考え方や適用例を説明されました。日々の不安や心の痛みを和らげたいならば、変革を恐れるのではなく、むしろ楽しむくらいでちょうどよいのかな、と感じました。

私は、大手メーカーの生産管理やTOCコンサルタントとしての立場を通じて、ものづくりの現場に30年以上携わってきました。ものづくりにおいてもそのような変革に伴う抵抗や反発、過去の常識や経験則とぶつかることがよくありました。具体例を挙げると、生産方式の大きな変更に伴う場面です。

ーー そのような変更は一人では成し遂げられるものではなく、関係する人たちの理解と協力が欠かせませんね。

生産される製品にもよりますが、世の中にはさまざまな生産方式があります。メーカーでは単独の方式ではなく、市場の要求や製品の特性に合わせていくつかを組み合わせることも少なくありません。下表は、主要な生産方式の特徴、メリット、デメリット、適用例を、私なりにまとめたものです。 

主要な生産方式の比較

これらがすべてではなく、あくまで昨今見受けられる代表的な生産方式を取り上げています。 

時代をさかのぼれば18世紀、石炭を用いた蒸気機関の発明に基づく第1次産業革命により、人類はそれまでの農業社会ではなしえなかった高い生産性を手にしました。工業社会の始まりです。19世紀後半には、石炭よりも高い熱量を生成できる化石燃料を発掘、精製することに成功し、化学繊維や耐久財の原材料にも用いられます。電気、重化学などの技術進展が背景にありました(第2次産業革命)。こうしたエネルギーや素材の転換により、生産性が飛躍的に向上し、社会インフラが整備され、工業国を中心に世界の人口が増加していきます。20世紀は大量消費・大量生産時代の幕開けでした。生産方式だけでなく経営手法、生産管理などのマネジメントシステムの進化や資本主義経済が世界を覆い始め、人類の社会や生活様式も大きく変化していきます。

ーー 昨今は、IoT(モノのインターネット)、AI(人工知能)、ビッグデータ分析といった技術を活用するインダストリー4.0(第4次産業革命)、それらをさらに高度に推し進めるインダストリー5.0(第5次産業革命)などの新しいワードも登場しています。

さまざまなテクノロジーを活用した生産管理と自動化された工場を融合するスマートマニュファクチャリング(それを利用したスマートファクトリー)などが日々進化し続けています。

スマートグラスやセンサーを利用した制御

さて、あらためて前掲の表を眺めてみると、どの生産方式にも一長一短があることがお分かりになると思います。万能な生産方式はなく、市場の要求や製品の特性に合わせて、適切に選択したり、組み合わせたりすることが重要です。誤った選択をすると、在庫が滞留し、企業経営を脅かしかねません(関連記事:生産をお寿司にたとえるなら)。 

また、次のような疑問が湧いてきます。 

1、なぜ、生産方式はこのように数多く生まれてきたのでしょうか。 

2、生産方式を生み出した人は、どのような心境でこのような発明に至ったのでしょうか。 

3、生産方式の変革にあたって抵抗を受けなかったのでしょうか。もし受けたのならば、どのようにして周囲を巻き込むことができたのでしょうか。 

皆さんと順に考えてみましょう。 

市場や顧客に合わせて多様化する生産方式

最初の疑問は「なぜ、生産方式はこのように多く生まれてきたのでしょうか」です。 

詳細は研究者や専門家の皆さんにお譲りしますが、ものづくりの現場に長く携わっている一人として思うのは、その時代における需要、市場の変化に対応していくためだった、ということです。 

たとえば、計画生産を重視する生産方式は、同じ製品(家電製品など)を大量に求める人々の要求や市場の需要を満たそうという動機が背景にあります。たくさんの在庫を用意して、品切れにならないように備えます。 

ただし、売れ残ればキャッシュフローの悪化を招き倒産のリスクを抱えることになります。そこから、さまざまな商品を無駄なく売り切るために多品種少量や多品種変量の考え方に基づく生産方式も生まれました。また、高単価でオーダーメイドの一品ものなどは、それぞれの顧客に合わせた個別受注で生産する方式が適している面もあります(ただし、不動在庫が生じるリスクもあります:関連記事「回転しない不動在庫を抱えていませんか?」)。 

あらためて、生産方式の多様化や進化を生み出した大きな要因のひとつにあるのが、変化する需要変動への対応です。需要変動の在り方に変化が起きていることが、生産方式に変革をもたらしてきた、と言い換えられるでしょう。 

ご注意していただきたいのは、どの生産方式が優れて、どれかが劣っている、ということではありません。それぞれに向き不向きがあります。言い換えると、どのような需要変動にも対応できる万能薬はないのが実情です。MTA(需要連動生産)でさえ例外ではありません。状況に応じて適切な選択をすることが生産管理と経営層の役割です。重ねて申し上げますが、うっかり間違えると、かえって在庫が滞留し、企業経営を圧迫する原因になるのでご注意ください。 

ーー>次回は、抵抗や反発に遭遇したであろう生産方式の発明者や、先達の心のうちを考えてみます。

河野 全克
河野 全克(かわの まさかつ) 
プログレッシブ・フロー・ジャパン株式会社 
執行役員

【河野全克(かわの まさかつ) プロフィール】SHARP(シャープ)を一躍メジャーにした液晶事業のサプライチェーンを長年牽引するとともに、顧客・サプライヤー・自社のwin-win-win(三方良し)により構築した調和の力で事業の発展に大きく貢献した。現場叩き上げだからこそ語れる失敗談やそこからの学びと成功体験、さらにTOCの合わせ技で、真にクライアントに寄り添うコンサルタントとして活躍中。奈良県出身。

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