日々起こるさまざまな問題、効果的な方策ありますか?
組織のマネージャーの皆さんは、大小さまざまな問題に毎日のように直面しているのではないかと思います。
ただその解決にあたって、目の前にある個々の問題それぞれに対して「効き目のありそうな方策はこれか、それともあれか」と頭を悩ませていないでしょうか。
一方、TOC(制約理論)の思考プロセスでは、はじめに、「何を変えるのか(What to change)」について考えます。
「ちょっと待ってください。何を変えるかは、はっきりしていますよ。目の前のこの問題なんです!」と急かされそうですが、少しお待ちください。
問題は「望ましくない結果」(UDE)として捉える
「あなたにとって何が問題ですか?」とお尋ねするとその答えは人によってさまざまです。
- 「業務がペーパーレス化されていないために欲しいデータがすぐに手に入らない」
- 「社内のコミュニケーションが悪い」
- 「営業担当者に大きな負荷がかかっている」
といった組織の中で目に付く「問題」のご指摘は多くあります。
- 「デジタルツールを導入したいが何がうちの組織にあっているのかわからない」
- 「部署間の風通しをよくするには定期的なミーティングを開催すればよいだろうか」
- 「営業プロセスを見直しているがどこから手をつけていいかわからない」
といった、症状を改善する効果的な対策が見えない「問題」を打ち明けてくださることもあります。
中には「最近の若者は自分の若い時に比べ、やる気がない!」という「問題」をぶつけてくる方もいます。
このように同じ組織内でも人や立場によって「問題」の捉え方は異なります。
TOC(制約理論)の思考プロセスでは、「問題」を次のように捉えます。
それは、組織がこうありたいと望む目標と、現実の認識との間に存在する「望ましくない結果」です。
望ましくない結果とは、Undesirable Effectの訳で、UDE、ウーディーと読みます。
言い換えると、ある組織を見た第三者が「問題が多いな」と感じても、当該組織の責任者が「現状は望ましい」と捉えているのであれば、その組織(その責任者)にUDEは存在しません。
組織の「問題」について分析する際、「症状」「悩み」「憤り」などが混じり合った状態で列挙していないでしょうか。そうではなく「組織のUDEは何か」を明らかにする、という方針を共有してから整理することが肝心です。ボタンを掛け違えたまま論じても話が発散して、分析とは程遠いものになってしまいます。
組織における望ましくない結果(UDE)は、病気の症状と考えると分かりやすいでしょう。「39度の熱で頭が割れるように痛い」「右膝関節を深く曲げると、激しい痛みが出る」などです。問診では患者の主訴を聞きながら併せて体温や血圧、脈拍などを測定します。
同様に組織の現状分析でも、UDEを裏付ける客観的なデータがあれば、そのUDEの確からしさが増します。組織では重要な業務の執行に必要な各種データを記録していることが多いので、すべてのデータを新規に採取する必要はありませんが、ない場合には新規にデータを集めるケースがあります。
「なぜなぜ分析」とTOC(制約理論)の思考プロセスの共通点
TOCの思考プロセスでは、問題をUDE(望ましくない結果)で表現しますが、列挙されたUDEの間に先行・後続する因果関係が存在することが多くあります。病気でいうと、高熱が数日続く症状と脱水症状はどちらも「症状」にあたりますが、長引く高熱が引き金となって脱水症状が起きる、という因果関係が潜んでいる可能性もあります。
UDEを因果関係で結び、現状の問題の論理的な構造を理解し、より根本的な原因を探るためのツールが、現状ツリー(CRT)と呼ばれます。CRTはCurrent Reality Treeの略で、書籍によって現状構造ツリーや現状問題構造ツリーと訳されていることがあります。
ところでTOC(制約理論)の思考プロセスは、トヨタのなぜを5回繰り返す「なぜなぜ分析」と比較されることがあります。「なぜを5回」の考え方は、問題があった際、即座にその問題への対策を考えるのではなく、より深い「真の原因」を見つけるために、なぜを繰り返すという考え方です。実は思考プロセスとなぜなぜ分析には互いに通じるところがあります。
先述した現状ツリー(CRT)における特徴の1つに、複数のUDEがどのような因果関係で結ばれているか、が可視化できることがあります。これにより、多くの症状を引き起こしている問題の構造を理解します。
ちなみに、未来ツリー(FRT:Future Reality Tree)では、個々の望ましい結果(DE、Desirable Effectの略)を因果関係でつなぎながら、「解決策の導入によってこうありたいと望む結果や目標に到達するだろうか」「解決策によって副作用が生じないか」などを多角的な視点で確認します。
トヨタの「5つのなぜ」も真の原因を見つけようとしていますので、TOC(制約理論)の思考プロセスと本質的には同じ考え方だと思います。ただ、単になぜを何度も繰り返せば、真の原因にたどり着けるかというと、そうは問屋が卸しません。
皆さんには、Aという問題があったとして、なぜと問うとBという原因が出てくるだけでなく、CやDも思い当たった経験はないでしょうか? さらにBに対してなぜと問うと、B’やB’’といった原因が出てくる。またB’に対してなぜと問うと、B’’’が出てくるという具合に、原因が徐々に「拡散」または発散してしまいがちではありませんか?
「5つのなぜ(なぜなぜ分析)」は方法論としては一見簡単そうですが、実際には難しいとよく言われます。原因がたくさんある樹形図を描いて問題分析を行っているお客様もよく見かけます。
中核的な問題を探る「収束」の考え方
TOCでは、拡散(発散)とは逆の「収束」(convergence)の考え方を使います。これは問題を深堀りしていくと、中核的な問題に収束するという考え方です。そしてこの考え方はトヨタの「なぜを5回」においても、真の原因にたどり着くためには前提にしなければならないものと位置付けられます。
TOCの思考プロセスでは因果関係を考える際、ある原因とその結果の単一の組み合わせだけでなく、当該原因(cause)から生じる別の結果(effect)を見つけることで、その原因の存在がより確からしいと考えます。この方法論をeffect-cause-effect、日本語では「結果-原因-結果」と呼びます。
たとえば、「車が始動しない」という結果(effect)に対して、どのように解決するかを考えるケースを例にしましょう。考えられる原因として、「バッテリーがあがっている」ことを挙げたとします。それに対して、本当にそうなのかを考えるステップを加えるのが、effect-cause-effectの考え方、つまり収束の考え方になります。「もし本当にバッテリーがあがっているならば、ほかにもそれによる症状が起こっているはずだ」と考えるわけです。
次の図は、バッテリーがあがっていることがもたらす結果として、右上に「ライトがかなり暗い」ことが示されています。

もちろん、ライトがかなり暗い原因が、照明回路の不具合など別にある可能性もありますが、車が始動しないことと併せると、バッテリーあがりが原因という可能性がかなり高まります。逆に、ライトが問題なく灯るようならば「バッテリーがあがっている」という原因は、誤っている(否定される)ことになり、複数考えられる原因の1つが削除されて原因の範囲はその分だけ狭まります。
このような考え方を用いると1つの問題から、多くの原因が出てくる拡散型の問題分析に陥る事態から離れることができます。
今回は、UDEと現状ツリー(CRT)を中心にTOC思考プロセスに触れましたが、いかがでしたでしょうか? 思考プロセスで大切なポイントの1つは、「問題」を明瞭に理解することです。そこから望ましい未来は何かを考え、解決策の導入により想定される副作用と起こりうる障害の克服・対処方法を検討し、導入における効果的な順序を見極めます。思考プロセスには現状ツリー以外のツールもありますが、そちらの活用方法についてもあらためてご紹介したいと思います。
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