変化に富み、先々が見通しにくい不安定な時代。心細さや不安に駆られることもありますが、新たな挑戦を楽しめばピンチはチャンスになり、望む「安定」にむしろ近づくーー。こう指摘するのは、コラム記事「正解が見えづらい時代を生き抜く術」でお馴染みのプログレッシブ・フロー・ジャパン株式会社 執行役員 河野全克(かわの まさかつ)です。経営環境を律する制約は変化し続けるがゆえに、カイゼンや変革も継続的に見直し・対応が求められます。一方、現場では過去の常識が足かせになることも。モノづくりの未来を考えるシリーズの3回目です。 

現在の「常識」はいつか乗り越えられ「過去の常識、今は非常識」になるかも 

ーー  自動車、半導体、医療機器製造などのモノづくりの領域の進化が止まりません。IoT・AI・ビッグデータなどを活用し、リアルタイム制御と最適化を追求するスマートマニファクチャリングや、それを具現化するスマートファクトリーが続々と稼働しています。「作れば売れる」時代のイメージをお持ちの方がご覧になれば、隔世の感があるのではないでしょうか。

そうかもしれません。ただ、その時々における最先端の生産方式も、時が経てば別のやり方・考え方に取って変わられる可能性があります。それはモノづくりの歴史が物語るとおりです(関連記事:変革を楽しむと流れは変わる #1)。

ご存じのように現在は、AI(人工知能)技術が、好むと好まざるに関わらず世の中を席巻していますね。そして人類は地球の持続可能性を模索するとともに、宇宙や深海など新たなフロンティアに活路を見出そうとしています。子や孫の世代が歩む人生、世界はきっと今日とは大きく異なるでしょう。

モノづくりの領域でも「現在の常識」はいつか乗り越えられ、「過去の常識、今は非常識」になるかもしれません。TOC(制約理論)でさえ例外ではないと思います。

私たちPFJではAIを活用したTOC思考プロセス支援ツールを開発・提供していますが、ほかにも世界各地の企業やコンサルタントなどが試行錯誤を重ね、TOCはより身近なもの、より効果的なものへと絶えず進化し続けています(関連記事:AI技術を活用した研究開発の成果をラスベガスで発表

そんな現在の状況の中で、私が言いたいことはこれです。

 「TOC? MTA? そんなもの聞いたことないねん!」と頭ごなしに仰らず、その中身を覗いてみて、試しに貴社の生産方式に加えてみませんか?

ということです。 

お恥ずかしいのですが「そんなもの聞いたことないねん!」と話もよく聞かず突っぱねていた人、実はこれ昔の私そのものです。

食わず嫌いはもったいないです。やってみると思いのほか高い効果が得られて「これ、いけるな」と膝を打つかもしれません(なお、過去に取り組んでみてどうもうまくいかなかった、という方はこちらのページをぜひご覧ください)。

TOCの創始者って、どんな人?

ーー TOC(制約理論)の創始者であるエリヤフ・ゴールドラット博士(Dr.Eliyahu M.Goldratt、1947年〜2011年)はどんな人だったと思われますか?

同氏はもともと物理学者でしたが、その科学的な知見をものづくりや企業経営などさまざまな分野に応用して成果を挙げました。TOCは、1980年代にエリヤフ・ゴールドラット博士によって提唱された経営改善のフレームワークです。​ 

その理論は、組織やシステムのパフォーマンスを阻害する「制約(Constraints)」に焦点を当て、それをコントロールすることで全体の成果を最大化することを目的としています。同氏は「ザ・ゴール」という著作で注目されましたが、その論点をまとめると次の4つです。 

ゴール(目的)を明確にする​ 

ボトルネックを特定し、最大限に活用する​ 

全体の流れを意識し、部分最適ではなく全体最適を目指す​ 

継続的に改善する​ 

自動車メーカーのフォードは1990年代、サプライチェーンの効率化と生産プロセスの改善のために、TOCを導入しました。特に、エンジン製造ラインのボトルネックを特定し、生産能力の最適化を行い、在庫管理の効率化を進め、余剰部品を削減することに成功しました。

ほかにもボーイング、米国防衛省、バンク・オブ・アメリカなどでTOCは活用されました。

TOCコンサルタントの支援を受けた企業だけでなく、トヨタ自動車、ウォルマート、アマゾンなど自社で独自にTOCを応用した企業も数多く存在します。 

そのゴールドラット博士は、本質を見抜かせるユーモア溢れる人だったと思います。

活力の源にあった家族や仲間の存在

ーー 世の中には数えきれないほどのフレームワークがありますが、TOCの特筆すべき点はどこにあるのでしょうか。

TOCの面白いところは相手に「考えさせる」ところです。単に、答えを与えるのではありません。なぜなら、答えを教えてしまうと相手の考える機会(=成長の機会)を奪ってしまうからです。

ある時、博士の講演に参加していた人が「ボトルネックを解消したら、その次に何をすればいいのか?」と質問した際、ゴールドラット博士はすぐに答えを示すのではなく、「もし君がその答えを知っているとしたら、次に何をすると思うか?と問いかけたそうです。博士は相手自身が深く考えるプロセスを大切にし、対話の中で問題の本質を見抜かせる「教育者」でもありました。こうして多くの経営者やリーダーが自分で問題を解決する力を身につけていきました。

そのエリヤフ・ゴールドラット博士が、トヨタ生産方式の生みの親である大野耐一氏の思想やTPS(トヨタ生産方式)をリスペクトしていたことをうかがわせる逸話がいくつか残っています。特に、大野氏を含むトヨタの先駆者たちが「シンプルな原理を徹底的に追求してシステムを作り上げた」という点に、TOCとの共通点を感じていたそうです。 

博士は常識を疑う視点を持ち続けていました。たとえば製造業において従来重視されていた「効率の最大化」という考え方に異を唱え、「効率ではなく、ボトルネックを中心に考えよ」と主張しました。

ところで、弊社PFJの共同創業者であり、代表取締役会長のヤニフ・ディヌールは、エリヤフ・ゴールドラット博士の愛弟子でした(過去の講演での様子はこちらから)。ヤニフは常々、ゴールドラット博士は現状に甘んじることなく常に高い理想に向けて努力を惜しまない人だったと述べています。

生前のエリヤフ・ゴールドラット博士(左)とその愛弟子であるPFJの共同創業者・代表取締役会長のヤニフ・ディヌール(右)

ヤニフはこんなことも言っていました。博士と初めて対面した1時間のうち、最初の45分はお互いの子供のことを話し、最後の15分で仕事を手伝ってくれ、と打診されました。短い時間のなかで博士の人柄にすっかり魅了されたヤニフは一緒に仕事をすることを決意したそうです。

ーー 家族、仲間、同志の存在が、平坦ではない新たな道を切り拓く博士の活力の源にあったかもしれませんね。

そうですね。博士は堅苦しい理論家ではなく、ユーモアのある温かい人柄でも知られていました。著書『ザ・ゴール』執筆の際も、物語形式を選んだのは「複雑な理論を退屈させずに伝えたい」という意図があったそうです。また、セミナーでは笑いを交えた例え話や冗談で参加者がリラックスしながら学べる雰囲気をつくることを大切にしていました。

ーー その一端は同氏の著作からも読み取れますね。

エリヤフ・ゴールドラット博士も、類まれなる強い信念の持ち主だったと思いますが、私は、生活や仕事は渋々やらされるのではなく、自ら主導権を握って創造しよう、楽しもう、という考えが根っこにあったのではないかと思っています(関連記事:「変革を楽しむと流れは変わる #2」)。

モノづくりの世界にはこれからも市場の変化にともなって、新たな生産方式や生産管理のアプローチは数多く生まれてくるはずです。

そのときに変化や変革を苦痛や不安と思うのか、新しいことに挑戦するチャンスだと捉えるのかで、得られる果実はだいぶ違ってくるのではないでしょうか?

ーー> さて、あなたならどのような判断や選択をしますか? 次回はさらにモノづくりの未来を掘り下げます。

河野 全克
河野 全克(かわの まさかつ) 
プログレッシブ・フロー・ジャパン株式会社 
執行役員

【河野全克(かわの まさかつ) プロフィール】SHARP(シャープ)を一躍メジャーにした液晶事業のサプライチェーンを長年牽引するとともに、顧客・サプライヤー・自社のwin-win-win(三方良し)により構築した調和の力で事業の発展に大きく貢献した。現場叩き上げだからこそ語れる失敗談やそこからの学びと成功体験、さらにTOCの合わせ技で、真にクライアントに寄り添うコンサルタントとして活躍中。奈良県出身。

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