世の中に「企業」が必要とされる理由
もし、災害や疾病、事故、貧困などが存在しないパラレルワールドがあったならば、それはどういうものだったでしょう。あくまで想像の話ですが、ひょっとすると、保険業や、医療を施す病院、診療所は存在しなくてもよい仕事や企業だったかもしれません。また、衣食住のニーズを満たす農林水産業や建設業、それらを流通させる商社や小売業、また、運搬、輸送を担う鉄道や自動車、航空機などの製造業、関連するメンテナンスやサポートなどのサービス業も、これほど高度に発達していなかったかもしれません。
企業とは何かーー。近代的な組織論の創始者といわれる、チェスター・バーナードは、1930年代、複数の人の集団である組織には次の3つの要素があると考えました。
- 共通の目的がある
- 協働する意欲がある
- コミュニケーションが存在する
そして、企業はこのような要素からなる組織の一形態と捉えられるようになります。
また、1978年にノーベル経済学賞を受賞し、人間の認知能力や情報処理能力における限界、すなわち限定合理性という概念を提唱したハーバード・サイモンは、企業における経営活動の中心は意思決定であるとし、やはり組織のメンバーによるコミュニケーションの重要性を指摘しています。
たしかに世の中にある企業の多くはその目的に、人々や社会が抱えるなんらかの問題を解決したり、需要を満たしたりする価値の創造や、それらの実現を通じて世の中に貢献することを掲げています。
また、企業とはそうした使命や理念、目的、存在意義(パーパス)などに共感した人、または同じ志を持つ人たちが集い、協働し、コミュニケーションする場と捉えられます。
数百年続く日本企業の特徴
一方、企業には社会の公器としての役割があります。雇用と納税、また取引契約などの約束事の履行は、企業の責務に挙げられるでしょう。雇用については、社員に適切に賃金を支払ったり住居の支援をしたりするなど、その暮らしを守るということは、企業の永続や技能の伝承といった側面からも大きな意味を持ちます。
企業の外部環境は大きく変わります。創業年の古い日本企業は、社会経済や制度、文化の変化、さらには、多くの戦禍、好不況の波を潜り抜けています。その過程で、企業が掲げる目的や存在意義を問い直すケースもあったでしょう。
今日も変化は続いています。モノ売り(物質的な需要の充足)から、顧客体験やサービス体験を重視するコト売りへ、さらには、ある時期の出来事やイベントなどでしか味わえない価値を重視するトキ売り(消費)、社会的・文化的な貢献に価値を見出すイミ売り(消費)、といった数々のマーケティング用語が生まれているように、市場が求める価値は多様化し続けています。
日本において創業年数の長い非上場企業の上位には、寺社仏閣の建築業や仏具業、宿泊業が多くみられます。こうした企業の経営戦略はどう言い表わせるでしょう。
「あえて事業規模の追求はせずに、できるだけ外部環境に左右されにくい商売を選択し、信頼できる人々とともに伝統を受け継ぐ」という戦略、と表現することができるかもしれません。
そうした社歴の長い企業もまったく同じ仕事内容を繰り返すのではなく、市場ニーズや技術の変化への対応、見えない工夫や大胆な革新を重ねることで伝統を守ってきたはずです。また、同族経営などを通じて、できるだけ円滑な事業承継の実施により、組織を維持している、ということが共通点にありそうです。
一方、複数の出資者や株主から多くの資金を集めてグローバルに進出するような上場企業の経営戦略には、どんな特徴があるでしょうか。
後編はこちらからご覧ください。
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