需要の予測と検知

サプライチェーンはプッシュ型とプル型のビジネスモデルの組み合わせで構成されています。プッシュ型は需要予測をもとに生産や仕入れを行い、製品を市場に供給するモデルです。重要視する指標には、メーカーの場合、自社の生産設備の稼働率があります。一方、プル型は、販売・消費された実需の分だけ自社生産や外部からの調達で補充するモデルです。

需要の予測と検知

プッシュ型の難しさは需要変動の大きさです。特に、新型コロナウイルス感染症の拡大や地球規模での気候の激変、不安定な国際情勢などを背景に、過去の経験則や需要パターンが通用しない場面が常態化しています。

需要予測においては、不確実性の高い市場においてAIなどを活用して予測精度を高めることはたしかに重要です。ただこの機に、「自社がなぜ長期の予測を必要としているのか」とあらためて見直してみてはいかがでしょう。

長期の予測期間を必要としている大きな理由の1つは、製品を市場に提供するまでのリードタイムの長さ、ではないでしょうか。製品リリースまで半年、1年かかるとすれば、半年先、1年先の予測が必要になります。

プッシュでもプルでも重要なリードタイムの短縮

リードタイム短縮の重要性は、プッシュ型だけでなく、プル型においても同様です。

プル型はたとえば「10個の品物が売れたから10個補充する」という実需に基づき製品を提供する考え方です。市場における需要を予測するのではなく、タイムリーに実需を検知する視点が求められます。あたかも、手先の末梢神経の中の感覚神経が得た情報を、中枢神経である脊髄や脳に素早く伝えるように、実需を検知し生産量や供給量を変化させます。実需に基づく供給の考え方は、「予測」という不確実性の高い要素の考慮が省ける分、比較的シンプルといえるかもしれません。しかし、プル型では、実需の変動に応じて柔軟かつ速やかに生産・販売できる体制が必要です。そう考えると、生産や販売のリードタイムが短い方が、変動に対して柔軟に対応できるといえます。

プッシュでもプルでも重要なリードタイムの短縮

サプライチェーンのリードタイムを短縮できれば、需要予測の精度向上に投じていたコストも抑えられます。その分を生産基盤の見直しなどに振り向けることも可能になります。ただし、単に生産量を増やす、ということではありません。重要なことは予測の期間を短縮するために、サプライチェーンを「鍛える」ことです。鍛える、とは、クイックに反応できるようにリードタイムを短くすること、自社の生産・サービスの源泉を磨くことです。

リードタイムと言っても製造業だけの話ではありません。

例えば、サービス提供におけるリードタイムを考えると、売場における製品の補充頻度をきめ細かく行える物流体制の高度化も求められます。コンタクトセンターであれば、問い合わせ対応の時間を短縮が当てはまるでしょう。

メーカーの場合は自社の販売やサービスや生産の基盤のどこに制約があるかを見極め、それを最大限活用することです。なお自社の生産プロセスを変えなくても、生産計画立案のタイミングを見直すだけでもリードタイムを短縮できることも少なくありません。このアプローチは不動在庫の発生抑制にもつながります(弊社コラム「滞留する不動在庫をつくらないためには?」もご覧ください)。

需給に関する情報の可視化

昨今、せっかく市場の需要があっても半導体不足や人手不足などの供給力の低下が響き、販売機会を逸する場面が増しています。それを避けるために、原材料や部品在庫の積み増したところ、これが経営圧迫要因の1つになっています。

こうした問題を一気に解決する魔法の杖は残念ながら存在していません。

ただし、自社グループの情報を可視化することは、課題解決に有効です。たとえば、ある拠点の倉庫で不足している原材料や部品などが自社グループやパートナー企業の倉庫で滞留していることが把握できれば、サプライチェーン全体の中で融通することで商機を逃さずに済みます。需要の予測や検知が重要であると同様に、自社の製品や仕掛品、部品や原材料がどれくらい、どこに存在するのか、必要なタイミングで可視化できることも重要です。

ところが、こうした可視化のために必要な情報がバラバラに点在して、すぐに取り出せないということがよくあります。どうすればよいでしょう。

需給に関する情報の可視化

その課題解決を支援するソリューションはすでに実用化されています。例えば、プログレッシブ・フロー・ジャパンの会長であるヤニフ・ディヌールがCEOを務めるイスラエルのProgressive Labsが提供するSaaSを用いると、検知した需要データやサプライチェーンの在庫情報をリアルタイムに共有することが可能です。世の中にはこれ以外にも同様の製品、サービスがいくつかあります。

その場合、どの程度のロットや粒度で需要や在庫を検知するのかも重要になります。単品管理(SKU)を基準にして、リアルタイムに前工程の情報を後工程で共有することも有効です。このようなツールの活用も検討の選択肢に加えてみてはいかがでしょう。

サプライチェーン・マネジメントのポイント

さて、今回は需要の予測と検知を軸に不確実性の高い時代のサプライチェーン・マネジメントについて考えてみました。

  • 需要予測に基づくプッシュ型、実需にタイムリーに対応するプル型、いずれもリードタイムの短縮が重要です。とはいえ、最新鋭の需要予測のツールをする際にも、サプライチェーンを筋肉質に鍛えたうえで導入した方が、高い効果を手にできます。人の体にたとえれば、適切な運動や食事をしないままに、急に健康器具を買い揃えたり、いくつものサプリメントを飲んだりしても弥縫策に過ぎず期待した効果はあまり得られないのと似ています。
  • リードタイムの短縮にはいくつか有効な手法があります。メーカーの場合は自社の販売やサービスおよび生産基盤の制約を見極めた対策が重要です。生産計画立案のスケジュールを見直すことも効果的です。
  • 需要サイドだけでなく供給サイドも含めて全社の関係部署で情報を速やかに共有する仕組みを活用しましょう。SaaSなどクラウドサービスを利用すれば、オンプレミスのクラサバ環境を構築するよりも開発・運用コストをトータルに低減でき、成果も迅速に出せます。

需要予測に関して検討する際には、自社のサプライチェーンを鍛えることで、予測する期間をなるべく短くできないかという視点も考慮してみてください。

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