変化に富み、先々が見通しにくい時代。生きるために必要な資金を稼ぐ(儲ける)スキルとして、考える力行動する力変革し続ける力という3つの重要性を本コラムで指摘するのは、プログレッシブ・フロー・ジャパン株式会社のプロジェクトディレクター、河野全克です。ただ、変革し続けることに反発や敬遠したくなる心理もあります。そのようなわだかまりを解消できるかどうかが、現状を打開するカギを握るといっても過言ではありません。 

求められるものは「変わり続ける安定」

―― 前回のコラムで3つの痛みについて触れました。変化に対するの痛みや不安をまったくなくすことができるのでしょうか? 

まったくなくすことは難しいかもしれませんが、小さくしたり回避したりすることは可能です。たとえば、変化しないデメリット/メリットを上回るような、変化するメリットを提示することで行動を変えられる可能性はあります。

そもそも「状況が変化する可能性が高まっているように見える」ものの、実はその中にいる多くのメンバーにとって変化しないデメリットが明確にある場面、すなわち「変化するメリットが小さく、変化するデメリットが大きい」ならば、おそらく変化に向かう行動を躊躇うでしょう

それと逆に「変化するメリットが大きく、変化するデメリットが小さい」ならば変化に向けた行動をとる人が増えてもおかしくありません。当たり前といえば当たり前のことですが、非常に重要なロジックです。

たとえば、「『非制約』については、制約となっている工程の能力を超えてまで稼働させず、制約の能力を最大限発揮できるようにするには何をすればよいかに知恵を絞りましょう」と呼びかけても、稼働率が評価基準になっている工場やプロセスの場合、制約の能力を超えた稼働を控えることは、当該工程だけ局所的に捉えると、稼働率の低下を意味します。

すなわち、その工程の責任者や現場担当者の評価を下げる要因になります。そうすると責任者や担当者にとっては「変化するメリットが小さく、変化するデメリットが大きい」ことになり、変化へのアクションに二の足を踏む動機になります。

「なぜその変革をするのか」「それは誰のためなのか」について、現場に一方的に伝えるだけでは変革は押し付けになります。共創するためには、相手の立場に立って考えることが大切です。一例を挙げると、現場担当者の評価を下げない評価制度に変えるように上層部と交渉することも必要です。以前に交渉力について触れました。

――交渉は、一方的な指示や命令ではない、ということでしたね。

交渉をうまく進めるためのコツのひとつは、相手が拒む理由や原因を取り除くことです。そのために自分には何ができるのか、そこに知恵を絞りましょう。たとえば、相手のことをよく知るためにじっくり話を聞いてみる姿勢が大切です。その人が日頃どんな風に仕事をしているのか、どんなポジションを目指しているのか。あるいは、周りの人に「あの人はどういう人なの?」さりげなく聞いてみると違う一面に気づくかもしれません。どんなことを望んでいるのか、変革を拒む理由や原因はなにかが見えてくれば、しめたものです。変革は、一気に進めるものではなく、痛みを理解し、対話を重ね、小さな一歩を積み上げていくことが大切です。

私事で恐縮ですが、もともと学業というものが生まれ持って肌に合わず、悪ガキが集うと評判の地元の高校にどうにか滑り込んだものの、試験勉強などロクにせず、掛け持ちのアルバイトや仲間との遊びに当時明け暮れました。そんな私が大手総合家電メーカーへ就職が決まったと知ると、職員室の先生方が目を丸くしました。

ただ、メーカーの社員になって社内を見渡すと頭の回転の早い優秀な人がたくさんいます。「私とは『積んでいるエンジン』のスペックが違うな」と思いました。なので「まあ、5年くらい勤められたらよいかな」と思っていました。ところが配属された生産管理の部署が性に合っていたのか、気づけば25年ほど仕事をしていました。

長く勤められた理由を考えてみると、お金をもらうことは大変だという当たり前のことを子どものころから新聞配達などを通じて学び、進学してからも学業そっちのけで限りある時間の中でいかに効率よく稼ぐかを考え、絶えず実践してきたことが少しは役立ったのかもしれません。

直線を高速で駆け抜けられるF1エンジンを搭載していても、人生まっすぐで見通しの良い平坦な道ばかりではありません。山あり谷あり、曲がりくねった先の見えない道の連続です。さまざまな局面で社内だけでなく、仕入先、販売先など多くの取引先の担当者と交渉しながら、さまざまな課題を乗り越えてきました。失敗もさんざんしましたが、よい上司や仲間、取引先にも恵まれました。

あらためてお伝えしたいのは、我々が目指すべき組織や社会において求められるのは「変化のない安定」ではなく「変わり続ける安定」ではないでしょうか? 

それこそが、正解が見えづらいこれからの時代を生き抜く本当の力だと私は信じています。 

ーー その力を誰もが磨けると思いますか?

まずは、一歩踏み出してみるといかがでしょう。ただ、人それぞれの持つ、心身のスタミナには多寡があるのも事実です。変革を進める、継続するというのは並大抵のことではありません。問題、障害、抵抗、さまざまな壁にぶつかります。それを乗り越えられるだけのスタミナ、タフさは必要です。

(「諦めない力(=スタミナをコントロールする力)」について触れたこちらの記事もご覧ください)

そのように考えてみるとあらためて、これまで日本、いや世界のモノづくりを支えてきた先人たちは、壁にぶつかっても簡単にはへこたれない「常人には及びのつかない、とてつもないスケールのスタミナやタフネスを持っていたのではないか」とリスペクトするほかありません。

さて、これまで「正解が見えづらい時代を生き抜く術」と題して7回に分けて述べてきました。そのなかで、個人や家庭、企業が生き抜くためにお金を得る(儲ける)ために必要な3つの力と、それを実践するうえで役立つTOC(制約理論)の考え方や適用例を交えて持論を述べました。

次回からは偉大なる先人が築いてきた、ものづくりにおけるさまざまな生産方式をあらためて見つめ直しながら、ビジネス変革の進め方を皆さんと一緒にさらに掘り下げていきたいと思います。

ーー>次回コラムに続きます。

河野 全克
河野 全克(かわの まさかつ) 
プログレッシブ・フロー・ジャパン株式会社 
プロジェクトディレクター

【河野全克(かわの まさかつ) プロフィール】SHARP(シャープ)を一躍メジャーにした液晶事業のサプライチェーンを長年牽引するとともに、顧客・サプライヤー・自社のwin-win-win(三方良し)により構築した調和の力で事業の発展に大きく貢献した。現場叩き上げだからこそ語れる失敗談やそこからの学びと成功体験、さらにTOCの合わせ技で、真にクライアントに寄り添うコンサルタントとして活躍中。奈良県出身。

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