企業組織と経営戦略

「戦略」(strategy)という言葉は、もともとは軍事用語です(兵法、という言葉もありますが)。こちらを経営(マネジメント)やビジネスの世界に持ち込んだのは、アルフレッド・チャンドラーと、イゴール・アンゾフだといわれています。

「組織は戦略に従う」(原題は『Strategy and Structure』(戦略と組織))を1962年に発表したチャンドラーは、同著でデュポンやゼネラル・モーターズ(GM)など、当時の米国トップ企業4社の戦略や組織を分析しました。そして、組織には戦略が必要であること、環境変化に応じて戦略は変えなければならないが組織は容易に変わらないこと、などを見出しました。

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他方、軍事系シンクタンクであるランド研究所出身のアンゾフは、企業における意思決定において、事業、製品、市場の3つをいかに選択するかが重要であることを提唱しました。選択を組み合わせた成長マトリックスは、その後の経営戦略論における原点ともいえる位置付けです。2人が生まれた年は、第一次大戦が終焉を迎えた1918年。両氏が活躍した1950年代から1960年代にかけて、企業という「組織」と「戦略」の概念は結びつけられたといえます(組織については、コラム「変化の中で永続する企業の条件とは(前編)」をご覧ください)。

危機を乗り越える企業

一方、「経営戦略」という言葉が市民権を得る以前は、企業組織の経営方針はどのようなものだったのでしょうか。時計の針をたとえば、1900年代前後の自動車業界に巻き戻してみましょう。

ヘンリー・フォードは1903年にフォードを設立しました。「フォード生産システム」と呼ばれる科学的経営手法を取り入れて、自動車を効率よく生産します。その中で庶民が手の届く価格帯のT型フォードは大ヒットしました。1908年には、前出のGMも創業し、車社会が発展します。大量生産、大量消費の時代の幕開けです。一方で、分業化と道具や作業内容を標準化する画一的な流れ作業は、チャールズ・チャプリンの「モダン・タイムス」で鋭く風刺される負の面がありました。

やがて第1次大戦を経て社会は混乱し、1929年に世界恐慌が訪れます。フォードやGMの販売は滞り、在庫の山を抱えて経営は行き詰まります。ただ、GMは新たに事業部制を採用して、景気低迷の中から車に対する大衆の新たなニーズをつかんで復活を果たします。

時代はやがて第二次大戦を経て、戦後へ。

豊田自動織機製作所(現・豊田自動織機)内に1933年に開設された自動車部を起源とするトヨタ自動車が大躍進したのはご存じのとおりですが、戦後大きく発展した「トヨタ生産方式」を特徴づける代表的な2つの特色は、ジャスト・イン・タイム生産とニンベンの付く自働化です。前者は必要なものを必要なときに必要な量だけ生産する、効率的なプル生産の仕組みです。後者は自動化された生産設備のメンテナンスに人間の持つ知恵を組み込む考え方といえます。

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物価高騰を招いた1973年の第一次、1979年の第二次オイルショックを経て、ガソリン消費量が多い大型車をメインとする米国の自動車メーカー各社は苦境を迎える一方、トヨタなど日本メーカーの車は高品質で低燃費であるという評価を得ました。

資源に乏しい日本がものづくり大国として世界で注目された大きな要因の1つには、二度にわたるオイルショックという危機を乗り越えることができる高い技術力にありました。

永続企業に息づく経営哲学

ただ、ものづくり大国としての日本は、次第に新興諸国の台頭などにより、相対的に地盤沈下が進んでいます。かつてのように大量生産、大量消費の時代からニーズの多様化による多品種少量生産や変量生産へとシフトし、先行者利益を得られる期間も短縮していきます。

近年、中国などの新興国はじめ、米国の企業は、オープンなビジネス・エコシステムを形成し、市場シェアを広げるプラットフォームビジネス、つまりネットワーク効果を活かしたサプライチェーン戦略が目立ちます。

しかし、昨今、行き過ぎた競争や化石燃料の消費、自然開発などが今日の地球環境に与えるネガティブな影響が見過ごせなくなっています。自社だけ、自国だけ儲ければよい、という自己中心的な考え方では、いずれ生態系をも滅ぼしかねません。それぞれの企業や国がお互いに共存共栄していくために、政府や国際機関による規制、または業界の自主的な取り組みも必要になっています。

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SDGs(持続可能な開発目標)や、ESGといった非財務の経営活動があらためて着目されるのはその表れといえるでしょう。環境問題の解決を目的とする企業が今日多数、生まれています。自動車業界でもEV化という大きな流れが生じています。顧客や投資家、株主、そして組織で仕事をする一人ひとりの考え方も多様化しています。

猛威を振るったCOVID-19や各地での紛争、自然災害など今日も危機的な状況はそこかしこで生まれています。そうした中で「オンリーワン企業」と呼ばれる、世界屈指の市場シェアを持つ日本企業の存在が求められる場面が増えるかもしれません。

日本には、近江商人の心がけや生き方を表す「三方よし」や、仏教思想に由来する利他の考え方も経営哲学や理念として親しまれています。それらは老舗企業が多い日本企業の背景にあるDNAと呼べるのではないでしょうか。

企業組織が永続する条件は1つではありません。数々の未曾有の危機を企業組織がどのように乗り越え、挑戦してきたのか、それを紐解くことで多くの気づきや学びが得られます。今後もさまざまな角度から折々触れてみたいと思います。


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