造船システムの課題解決に向けて
本コラムでは、2024年1月に発表された「TOC制約理論を適用した造船システムの課題解決に関する研究」という論文をご紹介いたします。執筆されたのは、三井E&S造船株式会社 元監査役の土井裕文 博士(工学)です。
1970年代には世界で約50%という高い市場シェアを誇っていた日本の造船業は近年、韓国や中国などに押され、供給過剰状態と価格変動性の高い経済状態という厳しい外部環境に置かれています。とはいえ造船企業を1つのシステムとしてみると同じ外部環境でも、成長する造船システムと低迷する造船システムが併存してします。両者の差異はどこから生じるのでしょうか? また、どのようにすれば成長していくことが可能でしょうか?
本論文では、TOC制約理論の最大の特徴とされる、制約の最大活用という手法で、造船システムにおける成長課題の解決方法を検討しています。論文は、次の7つの章で構成されています。
- 序論
- 造船システムのモデル化
- TOC制約理論による課題解決方法
- 組織の対立課題の検討
- システムのフロー向上検討
- 戦略に関する検討
- 本研究の総括
論文は土井氏のご厚意により弊社サイトに全文公開しておりますので、どうぞご覧ください。本稿では論文の概略についてご紹介します。
パーパスはシステムの成長を引き出す源泉
第1章では、本研究および論文の目的が4点、次のように記されています。
- 造船システムのパーパスと制約の整理による造船システムのモデル化
- 造船システムの評価のためのベンチマークの検討
- 造船システムに適したTOC制約理論による課題解決法の検討
- 提案する課題解決法の造船システムの適用
造船システムを含むすべてのシステムにはその存在目的であるパーパスがあり、パーパスは造船システムの成長を引き出す源泉です。一方、造船システムには制約があり、これらがパーパスの実現を阻む要因にもなっています。
このためTOC制約理論では、制約に着目して改善を行うことにより、造船システムの能力を向上させることが可能になると考えます。
パフォーマンス評価のベンチマークとしてリードタイムに着目
第2章では造船システムに存在する制約を「ボトルネック」「対立」「方針制約」の3つに整理しています。また、システムのパフォーマンス評価指標について検討し、ベンチマークとしてリードタイム(工期)に着目します。そして、リードタイムの短縮化がスループット向上や他社との差別化につながる重要性を指摘しています。
第3章では、第2章で整理した制約の最大活用法として思考プロセス法、組織の合意形成に有効なアンビシャスターゲット法、リードタイムを改善するための手法として、システムの流れを良く(早く)しシステム全体の生産性と収益性向上を実現するフローマネージメント法を提案しています。また組織の課題解決のための前提条件も述べられています。
今回は論文の第1章から第3章までのアウトラインをお伝えしました。第4章以降についてはあらためて、近日公開のコラムでご紹介します。お楽しみに!
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