『きのう何食べた?』に見るプロジェクト推進のヒント

よしながふみさん原作の漫画『きのう何食べた?』をドラマや映画でご覧になった方もいらっしゃるかもしれません。ドラマと映画では、几帳面で倹約家の弁護士・筧士郎(シロさん)と、人当たりの良い恋人・矢吹賢二(ケンジ)それぞれを演じる人気俳優の西島秀俊さん、内野聖陽さんが当たり役になりました。テンポの良い掛け合いで観客の笑いと涙を誘います。また、シロさんが台所に立ち、料理に腕を振るうシーンも見どころです。

ドラマ第一話の献立は、

  • 鮭とごぼうの炊き込みごはん
  • 豚肉とかぶとかぶの葉のみそ汁
  • 小松菜と厚揚げの煮びたし
  • 大根とほたてのなます
  • 卵とたけのことザーサイの中華風いため

とヘルシーでおいしそうなメニューが並びますが、実際のところ2人暮らしの賃貸住まいのキッチンでこれらの献立を手際よく1人で仕上げるのはかなりたいへんでしょう。段取りや手順次第では、せっかくの炒め物が冷めてしまったり、コンロが思うように空かなくてイライラしたりするかもしれません。

ますます重要になってきたプロジェクトマネジメント

家計を管理しながら健康に暮らすためのご飯やお弁当を作ることも、ある意味ではプロジェクトです。

プロジェクトとは品質、納期、予算(QCD)を目標の範囲内で達成する有期の活動などと定義されています。社内の改善活動が「〇〇プロジェクト」と呼ばれることもありますし、IT開発や新製品/新サービス開発、そして建築や建設などは典型的なプロジェクトです。

また、一般的にはプロジェクトと呼ばれていない業務でも、実態としてプロジェクトという場合もあります。例えば、航空機やプラントのMRO(メンテナンス、リペア、オーバーホール)業務はプロジェクトです。ホワイトカラーの業務も、かなりの割合でプロジェクト業務ということができます。

このように見ると、プロジェクトは特別なものではなく、私たちの仕事や日常生活の中で、かなり広い範囲で行われている活動と言えそうです。

ところで、皆さまの周りのプロジェクトはうまくいっていますか?

時代の変化が激しくなっている昨今、現場で感じるのは、以前よりもプロジェクトマネジメントの重要性が一層増しているということです。今回はプロジェクトの課題について考えてみたいと思います。

「悪いマルチタスク」と「リソースの希薄化」

仕事柄、弊社のメンバーは、プロジェクト業務を行っている企業/組織からお声がけいただくことが多々あります。

  • 予定していた期限より完成が大幅に延びてしまった
  • 遅れを取り戻すために他の部署からメンバーが駆り出されたが、今度はその部署で人手が足りなくなって遅滞が生じてしまった
  • なぜか、数年に一度大赤字のプロジェクトが出てしまい、それまでの利益が全部ふっとんだ
  • 品質が低いまま製品をリリースしてしまったがゆえに後から顧客対応に苦慮した

プロジェクトのQCD(品質・コスト・納期)にまつわる問題は大なり小なりさまざまです。

そこでよく目にするのは、「悪いマルチタスク」や「リソースの希薄化」です。

「悪いマルチタスク」とは、下図のようにあるタスクが終わる前に別のタスクを行っている状態で、複数のタスクを未完了な状態で掛け持ちしていることを指します。タスクの切り替え自体が悪い、というわけではありません。ただ、あるタスクを中断して別のタスクに作業を切り替える際の準備や段取り、頭の切り替えなどスイッチングにかかる時間がプロジェクトの早期完了に悪影響を及ぼしている場合があります。

逆に、各タスクの着手タイミングは必ずしも早くなくても、タスクに集中することによってトータルでは短期間に完了させることが可能です。

「悪いマルチタスク」や「リソースの希薄化」

一方、「リソースの希薄化」とは、タスクにリソースが薄く長く割り当てられることを指します。下図は同じ10人日のプロジェクトですが、上段は2人で5日間、下段は1人で10日間かけてタスクをこなしています。

理想的には、適切な規模のリソースを投じてタスクを進めればより短時間に完了させられるはずです。しかし、それをせずに、追加リソースを投じる余裕がないなどを理由に、理想とする状態よりも少ないリソースでタスクを実行している状況をリソースの希薄化といいます。

とはいえ、メンバーを適切な規模以上に増やしても短縮できるリードタイムは頭打ちになるので、リソースが多ければ多いほどよい、というわけではありません。

理想とする状態よりも少ないリソースでタスクを実行している状況をリソースの希薄化

これらが厄介なのは、意識しないと問題点がなかなか見えてこないことです。

「人」というリソースに目線を当てて現場を眺めてみると忙しく途切れなく仕事をしていることから、待ち時間や空き時間はほぼない、ということになります。ところが、「プロジェクト」や「タスク」の目線で見ると、メンバーの待ち時間や空き時間がものすごくある、ということに気づくことが少なくありません。この目線の切り替えがプロジェクト推進では重要になります。

プロジェクトにおける悪いマルチタスクの発生やリソースの希薄化。それと製造現場で仕掛(WIP)が多いことは、本質的に実は同じ課題を抱えている状態です(WIPはWork in Processの頭文字)。そういう点でホワイトカラーの業務においても仕掛(WIP)の考え方は適用することができます。

仕掛(WIP)が多いとリードタイムは長くなります。リードタイムが長いと設備の故障やメンバーの不調、調達面でのトラブルなど不測の事態などに出くわす”不確実性”に晒される時間も長くなります。そしてますますリードタイムが延びたり品質が悪くなったり、と新たな問題の火種を作ることになります。

プロジェクトでリードタイムが長くなると計画通りに進まなくなりがちです。計画段階では、必要なリソースの重なりや空きがないように見積もっていても、実行段階で計画が崩れ、その結果、プロジェクトのQCDが毀損しやすくなります。

まるで、高速道路で渋滞が起こっているのと同じですね。本来であれば、スピードを出してスイスイ走れる道であっても、思った以上に通過に時間がかかれば次第にストレスが増して車内の雰囲気はギスギスし、旅行プランの見直しや思わぬ事故を招くリスクも高まります。

リソースをフル稼働させることは良いことか?

ただ、悪いマルチタスクとリソースの希薄化は、プロジェクトメンバー個人の心がけで解決できる問題ではありません。メンバーをそのような仕事のやり方にさせているマネジメント上の問題です。

どんなに大きな組織/プロジェクトであっても、リソースが無限ということはありません。そして、すべてのリソースの能力が同一であることもありません。1つひとつのプロジェクトはいくつかのタスクのつながりで構成されていますし、プロジェクトをまたいでリソースが共有されている場合は、リソースを介して1つひとつのプロジェクトがつながっています。

そのような中で、すべてのリソースをフル稼働させると、仕掛(WIP)中のタスクが増え、リードタイムが長くなり、プロジェクトのQCDは満たされなくなる可能性が高まります。プロジェクトのQCDを満たそうとしてリソースをフル稼働させた結果、プロジェクトのQCDが毀損される・・・、何だか変な感じがしますね。

では、このような状況を変えるには、どうすればよいでしょうか?

リソースを集中させ仕掛(WIP)を低く保つ

カギになるのは、プロジェクトの目線に立って、リソースを集中配置することです。これにより、プロジェクトの仕掛(WIP)が少なくなります。

「そのような人員を抱える余裕がないから仕方なく人員(リソース)を薄く長く配置しているんだ!」というお叱りを受けそうです。

仮に同じプロジェクト内に、ほぼ同じスキルを持った方(人的なリソース)が複数名いて、薄く長く配置されているのであれば、そのメンバーを集約することでリードタイムを短縮させることができます(前掲したリソースの希薄化の図をいまいちどご覧ください)。また、もし同じようなプロジェクトが同時に実行され、同じように薄く長く配置されているのであれば、プロジェクトをまたいだ形でリソースを集中させるアプローチの仕方もあります。このようなアプローチをとると、「現在、必要なQCDの水準が満たされている」という企業も、さらに高いQCDを提供できる可能性が増します。

とはいえ、このリソースの再配置に関する意思決定は、先述したようにプロジェクトに従事するプロジェクトメンバー個々の取り組みでなしえるものではありません。組織全体のリソースを俯瞰し、管轄するマネジメント層の意思決定が必要になります。

さて、今回、プロジェクトにおける悪いマルチタスクやリソースの希薄化、あるいは仕掛作業の多さ(高WIP)についてご説明しました。これだけでもプロジェクトのリードタイムはかなり短縮されます。さらにスピードアップさせる方法もありますが、それについてはまた別の機会に譲りたいと思います。


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