待ち行列とリトルの公式

飲食店やチケット売場、企業の顧客対応窓口、電話を応対するコンタクトセンター、eコマースといったオンライン取引など、サービス提供には多種多様な形態があります。そこで基本的に共通するのは、

  • サービスを待つ顧客が存在する
  • サービスの提供者が存在する
  • サービスを提供が完了すると、顧客はシステムを離脱する

ことです。図1ではそれを示しました。

【図1】

病院の窓口をイメージしてみてください。

ある人が「内科」の窓口に到着すると、すでに診察待ちの行列ができています。

担当医は時間帯などにより1人または複数人いますが、このとき、1人の内科の担当医が対応にかかる平均時間を(W)(時間)とします。また、診察室で診察を受けている人数の平均値を(L)(人)とします。また、ある時間に内科の窓口に到着する人の数(ここでは1時間あたり)の最大値を(\(\lambda\)(ラムダ)とします。(\(\lambda\)) の単位は「人/時間」です)。興味深いことに、3つの変数(W), (L), そして(\(\lambda\))の間には、次のようなシンプルな関係式が成り立つことが知られています。

\begin{align}
L=\lambda W
\end{align}

これはリトルの公式( Little’s Formula )と呼ばれています。1961年にジョン・リトル氏が証明したとされる法則で、第二次世界大戦後に発展したOR(オペレーションズリサーチ)と呼ばれる、経営工学系の領域では有名な考え方の1つです。なお、英語表記で「Formula」の部分はLaw(法則)、Theorem(定理)などの場合もあります。

たとえば、窓口に訪れる人の数(\(\lambda\))が1時間あたり平均10人で、診察室での診療が完了するまでの平均時間(\(W\))が12分(0.2時間)だとすると、診察室に滞在して診療を受けている人の数(\(L\))は(10 \(\times\) 0.2\(=\))2人ということになります。

つまり、12分おきに2人ずつ診療を終えていくので、10人並ぶ行列の最後尾に到着したばかりの人は、今から60分(1時間)以降に診察室に呼ばれると予想することできます。

行列をやみくもに短くしようとすれば?

行列に並ぶ人の待ち時間を減らすには、どうすればよいでしょうか。

方法はいろいろとありますが、まずは「診療に要する時間を短縮する」という手があります。

では診療時間を短縮するには、どんな方法があるでしょう。

たとえば、

  • 医師の数を増やす
  • 診療が早い敏腕な医師を配置する
  • 的確かつ迅速な診断をサポートする情報システムなどを導入する

といった施策がありそうです。

では、

  • 来院者数を減らすように営業時間を短縮する

というのはどうでしょうか。

確かに、行列はできにくくなり、待ち時間は短くなるかもしれませんが、誰も並ばないと医師が手持ち無沙汰になるかもしれません。ひいては病院の売上が落ちます。

つまり、適切な保護メカニズム(バッファ)を持たずに待ち行列を無理に減らした場合、スループットの低下を招く恐れがあります。

したがって、患者の来訪を随時受付ではなく、予約制にするのも効果的でしょう。

ところで、先ほどのリトルの公式を病院ではなく、メーカーの生産システムに当てはめると、次のように考えることができます。

  • \(L\):仕掛在庫(完成品に至るまでの部品の加工や組立が行われている状態の半製品。Work in process=WIPとも略されます)
  • \(\lambda\):スループット
  • \(W\):リードタイム

つまり、

仕掛在庫(WIP)\(=\)スループット\(\times\)リードタイム

と見ることができます。

病院の場合と同様ですが、適切な保護メカニズム(バッファ)を持たずに、生産現場で「在庫は減らせ!」とやみくもにWIPを減らした場合、スループットの低下を招く可能性があります。

ジョブショップ型モデルでの留意点

内科、外科、眼科など、複数の科を受診する通院患者もいます。患者がいくつの科を受診するのか、はそれぞれ病状などにより異なります。仮に「2つの科を受診する」としてそれらが「内科と外科なのか」「外科と眼科なのか」という内訳も、患者ごとに異なります。ただ、受診する科の順番は変えても差し支えないとします。これを示したのが図2です。

【図2】

図1に比べると図2の状況は複雑になります。見方によっては「医師や医療機器といった医療資源(リソース)が、ある患者によってある時間だけ占有される」「一部リソースについては競合が生じる可能性がある」と表現することができます。

診療時間を短縮するには、図1の場合のように「医師の数を増やす」「診療が早い医師を配置する」「診断サポートシステムを導入する」などは有効でしょう。

ただし、医師の数や診察室の数を見直すにも「増やすとすれば何人、いくつの診療室を増やすのか」「もし増やしたならば、顧客があまり来ない時期の人件費や施設の維持管理コストは病院の財務で賄えるのか」など考慮すべき点があります。

予約制にするにしても、緊急対応な必要な優先度の高い患者の対応のためのリソースについては別途、考慮しておかなければなりません。

できれば、少ない人員の配置や設備への投資で、顧客の満足度を高めるサービスを提供できれば望ましいですが、重要なことは全体最適の視点でゴールを確かめ、課題を把握し、解決していくということです。

病院であれば、患者さんを待たせず、できるだけ早く元気になってもらうこと、が大切です。同じ患者さんが何度も病院に来ないように、苦痛や不安を減らすこと。より健康な状態に近づけることが、患者さんの満足につながり、よい信頼関係を築くことができます。病院の評判も高まるでしょう。経営の安定化につながるはずです。

なお、これを生産現場などに置き換えるとジョブショップ型という、多品種少量生産に適した生産方式と見なすことが可能です。

ジョブショップ型の生産方式は、工場内を複数のエリアに分けて、それぞれに同種の機械設備を配置します。多品種の生産なので、製品の加工工程はそれぞれ異なります。たとえば切削、穴あけ、研磨といった加工を行う製品もあれば、穴あけ不要で切削と研磨だけで済む製品もあります。製品によっては切削と穴あけの順番は逆になっても差し支えない場合もあります。各工作機械の間をさまざまな原材料や部品(ワーク)が往来しながら完成品に至ります。ここでは全体のスループットをどのようにすれば高められるか、といった経営上の重要なテーマがあります。

さて今回、待ち行列の基本的な考え方について、ご説明しました。さまざまな分野で応用されるものです。次回公開の後編「スタッフや設備の稼働率に意識を奪われていませんか?」では、TOCの考え方をこれらに適用する際の留意点に触れたいと思います。


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