多くの企業で見られる共通の悩みとは?

企業のさまざまな現場担当者の方とお話をしていると、カイゼン活動についてこんな声を聞きます。

  • 製造部門では、かつては熱心にQCサークルなどによる改善活動に取り組んできたものの、近頃どうも当初の盛り上がりに欠ける。なんとなく下火になっている――。
  • 設計/開発部門では、工数を削減する活動が繰り返し行われているけど削れる工数は既に削られており、数値に表せる成果は出せず掛け声だけに終わっている――。
  • 営業部門の方でも、売上増に向けた取り組みに向けた提案表彰などをやっているが、だいたいやり尽くした感があって、どうもネタ切れの状況だ――。

踏み込んで伺うと、残っている課題はあるのですが、それらは部署間を超えて取り組む大きな労力がかかるもの、設備投資などのコストがかかるもの、リスクが大きいものといった手を出しづらいものばかり。できる範囲のカイゼンはやりつくしたものの、そこから一歩踏み出せない、という状況です。

多くの企業で見られる共通の悩みとは?

一方、そのような部門・部署ごとのカイゼン活動の限界を超えるべく、全社のバリューチェーンを横串で捉えて、目標達成に向けて改善する企業もあります。

全社のバリューチェーンを横串で捉えて、目標達成に向けて改善する企業もあります

こちらは一見、部分最適を脱却し、全体最適の視点で活動が推進されるように思えます。しかし、実は「経営戦略に掲げた利益最大化などに結びついていない」という悩みを打ち明けられるケースが少なくありません。

ほかにもDX(デジタル・トランスフォーメーション)については、「トランスフォーメーション(変革)が求められているはずなのに、自社のそれは現状を変えることなくデジタルツールの導入にしか目が向いていない」といった声も耳にします。こうした課題は、大企業では多く見受けられます。もちろん、中小企業でもこうした悩みがまったくない、というわけではありません。課題はどこにあるのでしょうか?

矛盾した行動の裏にあるもの

端的に言うと、前述のような企業の取り組みは、「すべてのカイゼンの総和(=足し算)が組織全体の成長につながる」という考え方に根ざしていることにあります。

皆さんは次のような考え方をお持ちではありませんか?

「組織の規模にかかわらず、高い目標を達成するには、組織全体が目標に向かって協調し、一丸となって行動することが必須である。そのためには戦略を組織の隅々にまで浸透させ、協調した行動をもたらす方法を考案して実践していこう!!」

しかし、実態はどうでしょう。組織のいくつかの部署では矛盾する行動が取られ、結果的に全社的に見ると目標を達成できなかった。そんなご経験をお持ちではないでしょうか?

たとえばある企業では、営業利益率を向上させるという全社目標を実現するために、販売価格を高める戦略とコストを低減する戦略が示されました。販売価格を高くするために製造部門では「短納期化で価値を高めよう」とし、コストを低減するために調達部門では「部材の調達コストを下げよう」とした結果、製品の品質低下とサプライヤーの対応の悪化により余分な工数が増えて、結果的にリードタイムが長期化したりコストの高止まりが起きてしまうケースがありました。

結果的にリードタイムが長期化したりコストの高止まりが起きてしまうケース

では、このように矛盾した行動が起きる原因はどこにあるのでしょうか?

システムには「つながり」と「ばらつき」、そして「制約」が存在する

人は、視界に入るものしか見えなくなってしまう、聞こえてくるものしか聞こえなくなってしまう、という傾向や習性があるようです。心の中では大きな課題を感じていても、どうしても目先の数多くの問題を片付けるために時間に追われて、余裕がなくなりがちです。

一般に、こうした傾向は、規模が大きい組織ほど顕著です。部署ごとの縦割りも大きくなり、隣の部署が何をやっているのかわからない、ということが常態化しているケースは珍しくありません。また、中小企業でも「ウチは目が届く規模だから」と言いつつも課題が存在しているケースも少なくありません。

システムは、系、制度、組織などのように訳されていますが、互いに作用し合う要素が集まってできた、なんらかの仕組み、ということができます。自然界では生命体や生態系、地球や宇宙もさまざまな要素、サブシステムの集まりとなっています。

たとえば、生物の体には免疫システムが備わっていますが、それらも個々の臓器や多様な細胞の連携によって成り立っています。つまり、臓器や細胞などのサブシステム同士は、直接的または間接的につながっているわけです。生物の体に限らず、システムには必ず「つながり」があります。

企業というシステムには、例えば、マーケティング、営業、製品開発、製造、保守、流通といったサブシステムのつながりがあります。さらにサブシステム内を見ると、例えば、製造では加工工程、組立工程などの、さらに加工工程では切断、穴あけ、研磨、塗装などのつながりがあります。これは、IT業や金融業、飲食業などであっても同じです。

つながりがあるということは、ある要素と前後する順序関係を有した他の要素(1つではなく、たいてい複数あります)が何らかの影響を受ける、ということを示唆します。たとえば、組立工程の前工程である「加工」や「調達」工程から来る部品が1つでも集まらなければ、後に続く組立工程が影響を受けます。

さらに、つながりのある各プロセスのキャパシティ(能力)が、常に等しいということはありません。企業というシステムで見れば、営業の販売力は強いが、製品開発力は一番低く、他はまあまあということもあるでしょう。製造であれば、組立工程より加工工程のキャパシティが相対的に低く、その加工工程の中でも、プレス工程のキャパシティが一番足りないなど、キャパシティには常に「ばらつき」が生じています。

ばらつきがなければシステムの管理は楽ですが、現実の世界ではばらつきがない、常に一定の状態を保ち続ける、ということはありません。ばらつきは必ずついて回ります。つまりシステムには「つながり」があり、現実として常に「ばらつき」が生じます。システムや組織におけるパフォーマンスを限定しているもの、あるいは、司るものを制約(constraint)、とTOC(制約理論)では呼びますが、さまざまな要素のつながりばらつきで成り立つシステムを調べていくと、ごく少数の制約が必ず見つかります。

システム全体のスループットを律する「制約」を最大限に活用

ここで誤解してほしくないのは、制約が「」とか忌むべきものではない、ということです。お伝えしたいのは、自然の摂理としてあらゆるものに制約は必ず存在する、というシンプルな考え方です。

企業というシステムでは制約に着目し、制約を起点に影響を受けるさまざまなプロセスを見直すことで、システム全体のスループットを速やかに向上させる「変革(トランスフォーメーション)」が可能です。重ねて申し上げますが、システムから制約は消滅することはありません。売上10億円の会社であっても1000億円の会社であっても、ごく少数の制約がそれぞれの会社を支配しているのです。それは「除去」する対象ではなく、最大限に活用するものなのです。

ちなみに、「うちの会社の工場はフル稼働していない(=各プロセスに余裕がある)から制約はない。だからTOC(制約理論)は自社に合わない」とおっしゃる方が時々おられますが、その場合、その会社の制約は「市場」にあります。

どのようなシステムにも、「つながり」「ばらつき」があり、システムである以上、ごく少数の「制約」があります。システムであるにもかかわらず、部分に分けて個別に考えるのは、まさに不自然なことになります(要素還元的なアプローチといわれることもありますね)。

「すべてのカイゼンの総和(足し算)が組織全体の成長につながる」といって、つながり、ばらつき、制約を脇に置いて、一律に号令をかけたために全体的にはギクシャクしている。それが、カイゼンが必ずしも組織の変革につながらない大きな原因の一つです。

カイゼンやDXを実りあるものとするには、企業というシステムに存在する制約を的確に見極めることです。生き物のようなシステムの営みや、振る舞いのどこに命脈を律する制約があるのか、冷静に探ることが大切です。


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