商材を作り手の視点で眺めると
市場の製品には、定番品のように比較的コモディティなものから、ファッション性が高いものまで多岐にわたります。アパレル製品を例にとると、流行に左右されにくく、手堅く売れる衣類もあれば、トレンドに敏感な商品もあります。製品を市場に供給する売り手の視点でいうと、定番品はもしくは需要の変化が比較的小さいものが前者で、需要の変化が大きい後者は先々の動きが読みにくいという特徴があります。
一方、製品の原材料を仕入れる購買や調達部門など買い手の視点で同じ商材を眺めるとどうでしょう。
景気の波にかかわらず比較的安定して市場に供給され、調達しやすい原材料や汎用的な部品もあるでしょう。一方、珍しい生地や皮革などの天然素材、貴金属といった入手しにくいもの、天候や季節などの影響を受けやすいもの、そして市場にあまり出回わらず比較的高値で取引されるものもあります。
アパレル製品に限らず、さまざまなモノやサービスについて、上述した売り手の視点と買い手の視点で分けてみるとざっくり次の4つのカテゴリーが浮かび上がります。
- 原材料や部品が安定的に調達しやすく、需要の変動がゆるやかな市場
- 原材料や部品が安定的に調達しやすく、需要の変動が激しい市場
- 原材料や部品の供給がしばしば不安定で、需要の変動がゆるやかな市場
- 原材料や部品の供給がしばしば不安定で、需要の変動が激しい市場

(1)は冒頭述べた日用雑貨や定番アパレルなどのコモディティ品です。(2)は衣食住など比較的需要が手堅い商材のなかで、どちらかといえば流行り廃りがある商品が該当するでしょう。(3)は気象や自然災害に左右されやすい農水産物、畜産物をはじめ、電力、ガスのように原材料調達先である相手国の政治・経済の動向などの影響を受けるものが含まれます。(4)はたとえば日進月歩の先端テクノロジー領域で、AI(人工知能)の処理能力に直結する高性能な半導体製品や、高機能素材が該当するといえます。
他社の需要予測が外れたら?
売り手の視点、買い手の視点で事業の特性を4つに分類しましたが、いずれも共通しているのは、原材料や部品を調達、または加工・組立し、完成品を販売して対価を得る、という価値創造のモデルです。
ただ、そのなかで、需要の変動がゆるやかな(不確実性が低い)商材については、計画に基づいて製品を製造し、サプライチェーンの川下、つまり顧客のいる市場に向けて製品をプッシュしていくモデルが有効とされています。他方、需要の不確実性が高い商材については、顧客(市場)からの受注情報を川上に引き上げるプル型のモデルが向いている、とされています(プッシュとプルについては弊社コラム「長期の需要予測が必要なのはナゼ?」もご覧ください)。
両者のしくみ(システム)に目を転じると、前者を支えるしくみの代表格は、MRP(Material Resource Planning :製造総所要量計画)といわれる考え方です。顧客から要求を受けてから提供するにあたって、必要な原材料や部品の量(所要量)に対し、在庫をやりくりして要求に応えます。ただ、欠品しないように先々の需要を予測して、外部の調達先をあたって必要な原材料や部品などを仕入れたり、生産計画に基づいて社内で生産したりします。それらの流れを整えるのがMRPの目的です。
また、予測された需要に対して、所要量、作業内容、設備や人員などのリソースの最適配分を計算するためのツールが、ERP(Enterprise Resource Planning)システムです。統合基幹情報システムともよばれます。昨今はERPにもAIが搭載されるようになりました。需要予測の精度向上だけでなく、重回帰分析などを用いてサプライチェーンにおける二酸化炭素の排出量予測や、人事におけるキャリアパスの提案など、バックオフィス業務も含めたさまざまなモジュールが開発、提供されています。

一方、後者のプル型モデルとして著名なのはリーン生産です。その代表例はトヨタ生産システムです。
ここで、「不動在庫」の発生リスクが高いかどうかという観点でプッシュ型とプル型のモデルを比較するとどちらが有利でしょうか(不動在庫の詳細は弊社コラム「回転しない不動在庫を抱えていませんか?」をご覧ください)。もちろん世の中の企業でプッシュとプルを組み合わせた事業モデルは多く存在しますが、ここではあえて分けて考えてみます。
「プル型のモデルは、先行する前工程からの指示がない限り、後工程は無造作に製造してはいけないという決まりがある。だから、原理的に無駄な在庫が生じにくい」
「プッシュ型でも、生産計画を月次ではなく、週次や日次に細かくして実施すると、無駄な在庫が生じにくいのではないか」
いずれもまちがいではありません。とはいえ、いずれも需要予測に依存している場合、過剰在庫を抱えるリスクがあります。たとえ、リーン生産を行う企業であっても油断は禁物です。特に、顧客から注文を受けて納品するまでのリードタイムが長い場合は、要注意です。
たとえば、リーン生産を行う部品メーカー(A社)があります。A 社のラインナップには3カ月間のリードタイムを要する製品Xがありました。この製品を、A社より市場に近い川下のメーカー(B社)が継続的に発注していました。B社は最新の需要予測システムを導入し、そのシステムが提示する予測シナリオを重視しています。ところが(国際情勢や自然災害の影響などにより)予想を超えるスピードで市況が悪化、B社の見通しが大きく外れ、売れ残りを多数抱えてしまいました。B社はA社に、製品Xの残りの発注を急遽キャンセルしたいと交渉しますが、A社はすでに他社に原材料や部材を発注し、生産をスタートさせています。その仕掛品やすでに入荷した一部の原材料などは、新たな売り先を探さない限り、行き場のない過剰在庫となり、A社の経営を圧迫する可能性があります。
需要の変化に追随するには
需要の変化は、私たちの方針や対応力、目標在庫の変更よりも、はるかに動的です。素早く対応しようとしても、間違った在庫目標に合わせて補充すれば、供給と需要の不一致が発生しかねません。品幅が増えるほど、問題はより深刻になります。
複雑なサプライチェーンのネットワークにおいて、そうした難しい需要の予測に失敗する企業が少なからず存在すれば、前述したA社のように、受注に応じて生産をするプル型のメーカーでも、リードタイムが長い製品については市場の影響を避けられない可能性があります。
それに対して、TOC (制約理論)では、在庫状況すなわち売れ行きを見ながら補充する考え方を採用します。
「それはプル型のモデルと同じじゃないの?」と思われるかもしれません。しかし異なる点が多々あります。
需要予測への大きな依存から、需要駆動型の供給方式に移行し、市場に対する応答時間を短縮します。そして、自社のみに囚われず、サプライチェーン全体としての在庫を大幅に削減することを目指します。これをMTA生産(Make to Availability)と呼びます。

本コラムでは、モノの流れがつくられるサプライチェーンに滞りを作らないようにするためのポイントを考えてみました。もし、コンビニやスーパーでパンやスイーツ、アパレルショップで売り場の商品を手に取ったとき「これが何から作られ、どのようにしてここまで届けられたか」に思いを馳せてみると面白いかもしれません。
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