在庫はなぜ必要か?
「SDGs」(持続可能な開発目標)では17のゴールが掲げられています。
その12番目は「つくる責任つかう責任」、持続可能な生産と消費についてです。具体的な達成目標の1つとして、
2030年までに、お店や消費者のところで捨てられる食料(一人当たりの量)を半分に減らす。また生産者からお店への流れの中で、食料が捨てられたり、失われたりすることを減らす。
(公益社団法人 日本ユニセフ協会のサイトより)
という項目があります。
食品ロスに限りませんが、売りさばけなかった衣類や家電などの在庫を大量に廉価販売したり、廃却したりすると経営を圧迫するだけでなく、次の世代が暮らす環境の持続可能性を損なうことになりかねません。では、そもそも在庫はなぜ必要なのでしょうか?
理由の1つは、顧客がある商品を要求してから入手するまでに必要な供給リードタイムと、顧客が欲するタイミングとのギャップを埋めるため、です。
たとえば「チョコレートが食べたい!」と思った時の購入タイミングは「今」ですよね。一方で、菓子メーカーがチョコレートを製造して販売店へ届けるには、一般に数日の期間(=供給リードタイム)が必要です。販売店はその間に顧客を待たせない量のチョコレートの在庫を持たないと「品揃えが悪い!」と顧客から苦情が飛んできます。
ところで一口に「在庫」といいますが、「回転」を切り口としていくつかに分けることができます。
- 回転の良い在庫:顧客要望にも応えながら常に流動している鮮度の高い在庫。理想的な在庫。
- 回転の悪い在庫:顧客要望には応えられるけれど流動スピードが遅く鮮度が悪い在庫。何とか消化するために「今ならこの価格で売れます!」と安売りされる場合も。
- 回転しない在庫:動かない在庫。不動在庫とも呼ばれます。発生理由は様々ですが引き合いがなく「タダでも要らない」と断られてしまうような在庫です。
回転しない在庫になると、倉庫代や管理費用を支出し続けて塩漬けにするか、業者にお金を払って廃棄を依頼するほか手立てがなくなります。
回転しない滞留在庫はなぜ生じるのでしょうか? そして、どうしたら減らせるでしょう?
回転しない在庫が引き起こす問題
不動在庫は「回転しないで長年滞留している在庫」のことです。長年、というのは企業が販売する製品の流通量や耐久性、市場価値や企業の経営状況によって一概に言えません。製品のライフサイクルが短期化するなかで、たとえばある部品メーカーでは在庫回転期間が1、2年を超えるような滞留在庫は、不動在庫、不良在庫、”ヘドロ在庫”などと呼ばれています。
滞留在庫はQuality、Cost、Deliveryにさまざまな問題を引き起こします。
たとえば、
- 顧客対応のために慌てて生産せざるを得ず、品質の低下を引き起こす(Q)
- 倉庫保管コストが増える(C)
- 廃却損が生じる(C)
- コストダウンを迫られバーゲンセールとなり、さらには市場における価格破壊の引き金になる(C)
- キャッシュフローに悪影響を及ぼす(C)
- 回転の良い在庫が効率よく持てなくなる結果、顧客対応力が低下する(D)
- 全社の総在庫を底上げすることにより、俯瞰すると別の拠点や倉庫での欠品を招く(D)
などです。
滞留しやすい在庫はどれ?
どのような製品が滞留する在庫になりやすいのでしょうか?
まずは製品の種類をおおまかに分けてみましょう。たとえば次のような分け方があります。
| 製品の種類 | 特徴 |
|---|---|
| カタログ掲載製品 | 受注に対して即納できる製品。過去実績や需要予測、顧客フォーキャスト、右肩上がりの経営計画などを参考に計画生産、計画発注を行う製品 |
| 在庫補充生産をする製品 | 在庫基準値を1カ月ほどに一度程度、見直す製品 |
| 特殊な製品 | 新規立ち上げやディスコン(打ち切り)対応の作り込みなどが必要な製品 |
さてこれらの中で、不動在庫になりやすいのはどれでしょうか?
実はいずれもそうなる可能性があるのです。在庫を持たない受注製品でさえ、例外とは言い切れません。他の製品との共用部材が不動化する可能性もあるからです。受注した取引先の倒産など、日頃からアンテナを張っていないと降って湧いたように顕在化するリスクもあります。
回転しない在庫ができる理由
“悪い”在庫が積み上がってしまう理由は何なのでしょうか?
いくつか挙げてみたいと思います。
- 製造側の製造ロットと購入側の必要数のギャップ たとえば、1回のMOQ (Minimum Order Quantity)100個に対して、顧客の消費が年間10個だと売れ残りの滞留リスクが高まります。
- 顧客注文のバラつき 顧客からの発注量がある年は10個だったり翌年は90個だったりと、ばらつきが大きく読みにくいケースです。メーカー側の製造ロットは迂闊に減らせません。発注量が少ない年には不動在庫化するリスクが跳ね上がります。
- 材料調達難を解消するために将来を予測した材料発注 1年分、2年分先を見越して発注しているケースなどで要注意です。今まさに材料調達難でどんどん買い増している企業が多いですが、買いすぎると数年後に不動在庫化する可能性があります。
- 市場環境の変化 売れ筋だった商品が、競合他社の新製品に取って代わられ、売れなくなった場合などです。
- 需要予測期間の長い見込み生産 「去年は品薄状態となり、作れば売れる状態だった。そこで今年は増産体制も準備しシーズンに臨んだが、予測は外れ、売れなかった」というケースが該当します。売れない理由の一因に、大量に市場に出回ったことによるプレミアム感の喪失があります。流行の起伏が大きいアパレル分野では、あるシーズンに大売れしたヒット商品シリーズの需要が次のシーズンにパタっとなくなることがあります。需要予測期間が長いまま、半年以上など長めの製造ロットサイズで見込み生産してしまうと“悪い”在庫に化けるおそれがあります。
- 良品率のバラつき 不良率のバラつきがある半製品が多く、完成品の生産量を確保するために多めに投入した結果、半製品の在庫が膨らむことがあります。
- 新製品、ディスコン(打ち切り) 新製品開発などで部品の共有化が徹底されていない、また、購入計画立案の頻度が少なく購入ロットサイズが多い、などが原因となって、使われない原材料が滞留在庫の山になってしまうこともあります。
さて、このような滞留在庫をどのようにしてなくせばよいのか。
そのポイントを稿を改めてご説明したいと思います。
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