2024年問題を因果関係で表すと 

こちらのコラムで取り上げた、運送会社の方へのヒアリングで列挙された問題の因果関係を、図に整理しました。

中小運送業会における2024年問題の構造

*拡大しても字がぼやけにくいPDFファイルはこちらからご覧ください。

図中の付箋(ふせん)の色は次の意味を表しています。
黄色:組織がこうありたいと望む目標と、現実の認識の間に存在する「望ましくない結果」(UDE:Undesirable Effect、ウーディー)を示します。
緑色:企業を取り巻く事実や前提を示しています。

図では、UDEおよび企業を取り巻く状況をそれぞれの付箋に文章で表しています。また、それぞれの付箋を原因から結果へと向かう矢印でつないでいます。

このように現状の問題の論理的な構造を理解し、より根本的な原因を探るためのツールを、現状ツリー(CRT)と呼びます。CRTは「Current Reality Tree」の略で、書籍によって現状構造ツリーや現状問題構造ツリーと訳されていることがあります。CRTの詳しい説明については弊社コラム「核となる「問題」に迫るTOCの思考プロセス」にて取り上げています。ご興味を持たられた方はそちらもぜひご覧ください。

ポイントとなる関係を読み取る [1]

さて、図を全体的に眺めてみると「要素にはつながりがある」ということがおわかりいただけると思います。ある結果が次の原因となり、相互に影響を及ぼす連鎖ができています。そして、ここでは連鎖がループ状の因果関係を形成していることがわかります。

では、もう少し詳しく説明を加えていきましょう。
ここでは6つのポイントを挙げました。図の下のほうから辿ってみましょう(カッコ付きの番号は図に割り振ったものを示しています)。

まず、「ドライバーになりたい人が減っている」と「人件費の相場が上がっている」という企業を取り巻く状況(1)についてです。

この背景には、輸送に関する需要中小企業で働くドライバーのキャパシティを上回る昨今の傾向があります。
ここでいうドライバーのキャパシティとは、ドライバーの人数、労働時間の上限、積載可能なトラックの台数およびスペースの広さなどを勘案したものです。

人手不足の傾向が続く現状の運送業界におけるこのトレンドは当面変えられないだろう、という認識が趨勢です。かつて需要を上回る人材を確保できた時代がありましたが、時間の経過とともにシステムのスループット(限界利益)を左右する制約になっていきました。これはいいかえると、制約は絶えず変化するということの表れです。皆さんを取り巻く環境でもいつのまにか影響を及ぼす制約が変化していることはないでしょうか?

次に挙げる状況(2)は、輸送するトラックの稼働率に関するものです。

中小運送会社における2024年問題の構造(2)

トラックの運送能力に対する「稼働率は現在5-8割程度」にとどまっていることを示しています。案件ごとの取引内容や時期などの条件によって稼働率に幅があるものの、仮に稼働率が1割上がったならば経営に与えるポジティブなインパクトは相当あるといえそうです。

ポイントとなる関係を読み取る [2]

続いて、「取引先に対して値上げしづらい」という望ましくない結果(3)です。
その背景には、荷主(特に製造業)も物流コストを自社の製品やサービスに価格転嫁することが困難な状況がうかがえます。

中小運送会社における2024年問題の構造(3)

これら(2)および(3)を原因の一端として、(4)「安定的に利益を維持することが難しい」というUDEにつながります。

中小運送会社における2024年問題の構造(4)

輸送する物量が安定しない場合でも利益を出すにはどうすればよいかーー。業界が抱える大きな悩みです。現場からは 「仕事の単価を上げることできればどうにか・・・」というつぶやきが聞こえてます。ただ、現状では生み出される利益が不安定であることに起因して、

  • 長期的な投資である社員育成に資金を割り振ることが難しい
  • 魅力的な給与条件を提示することが難しい
  • 事業成長のための資金を銀行から調達することが難しい」(5)

という結果が生じています。

中小運送会社における2024年問題の構造(5)

上述の「長期的な投資である社員育成に資金を割り振ることが難しい」という結果からはさらに、経営人材の育成や事業承継が進まないという結果が派生しています。将来の見通しが立たずに廃業する運送会社も少なくないのです。

さらに社員の育成に向けた投資や魅力的な給与条件の提示に消極的になれば「世間(特に若者)から魅力的な業界とは認知されない」状況が生まれます。これがドライバーを含む運送業界の人材不足に拍車をかける、負の循環の背景に横たわっています。

どこに制約があるのかを探る

私たちは業界の方々へのヒアリングを通じて、さまざまな望ましくない問題や企業を取り巻く状況を上図のようにまとめました。ただし、これが唯一の正解というわけではありません。また、はじめからこの図になったわけではなく、意見交換や検討を重ねるなかで辿り着いた図です。同じ業界に属していても、一社一社の経営環境は異なり問題の捉え方が異なるかもしれません。同じような構造になるとしても、まったく同じCRTになることはないでしょう。

CRTは議論の過程で書き直されることがめずらしくありません。当初は上がってこなかったUDEや状況に誰かが気づき、まわりの共感を受けて追加されることもよくあります。現状ツリーを作成する場面では、さまざまな立場のメンバーが意見を出しやすい雰囲気をつくること(心理的な安全性の確保)が進行役には求められます。

さて、整理したこの図から、どのように問題を解決していけば良いか、どこに負のスパイラルを好転するポイント(制約)があるのか、読み取ることが次のステップです。

たとえば、先述のUDE(5)「事業成長のための資金を銀行から調達することが難しい」および状況(6)「毎週のようにM&Aの話が舞い込んでくる」ことについては利益創出のメドが立てば、資金繰りの改善やM&Aによる事業の維持、拡大につながる可能性があります。

中小運送会社における2024年問題の構造(6)

そのためにも、前述した稼働率の改善と、仕事の単価の引き上げを含む取引先への値上げ交渉は避けて通れないポイントです。それにはどうすればよいでしょうか? UDE(3)「取引先に対して値上げしづらい」については、取引先である荷主(製造業を含む)を儲けさせることができれば、値上げ交渉を切り出しやすい雰囲気が生まれることが予想されます。

「本当に値上げなんて可能なの?」という声が聞こえてきそうです。次回はそれを可能にするアプローチを論点にしたいと思います。


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