変化に富み、先々が見通しにくい時代。生きるために必要な資金を稼ぐ(儲ける)スキルとして、考える力、行動する力、変革し続ける力という3つの重要性を本コラムで指摘するのは、プログレッシブ・フロー・ジャパン株式会社のプロジェクトディレクター、河野全克です。制約は変化し続けるがゆえに、カイゼンや変革は単発ではなく継続が必要です。また、それによって弛まぬ業績向上やイノベーションの発掘につながります。ただし、制約を特定した後に続く行動のとり方を誤ると、期待した成果が得られないことがあります。留意点を探りました。
お金を使う前に知恵を使う
―― 前回述べた制約を特定した後に陥りやすい、誤った行動とはどのようなことでしょうか?
変革をし続けるための5つのステップを継続的に回す取り組みでステップ1から3までと、ステップ4との間には大きな違いがあります。
それはお金を使っているのか、いないのかということです。前者で使っているのは、お金ではなく知恵です。たとえ関連する調査やツールの作成に投じる少額出費はあったとしても、制約を引き上げるための大規模な新規または追加の投資は、ステップ4まで行っていません。
これを誤るとどうなるか。私の失敗談をご紹介しましょう。
かつてメーカーで納期の遅延に関する問題が見逃せなくなった時のことでした。とある工程の能力不足が原因であることを特定したところまではよかったものの、その直後に大きな判断ミスを冒しました。特定した制約の能力の向上を図ろうと、大枚を叩いて装置と人員を追加したのです。納期問題は解決したのですが、増強した能力はその後余剰となってしまいました。
ーー 増強したリソースやキャパシティ(能力)を遊ばせてしまったと。
「もっといい方法はなかったのか」と問われると、お金を使わずに済む別の手立てがあったことに後で気づきました。ただ、時すでに遅し。
たられば、になりますが、お金を脊髄反射で使わず知恵をまずは使うというルールを徹底していれば、会社に余計なお金を出させることはなかったでしょう。
「会社の金や、と思って何も感じてないやろ。自分の金やったらそんな判断下すのか!」というお叱りが聞こえてくる気がします。時計の針を巻き戻せるならば、「知恵 → お金」の順序を間違えないで行動すると誓います(当時の上司に)。
なお、通常はステップ1~3を行うだけで、組織内で隠れていたキャパシティが少なく見積もっても2割ほど表面化してくるともいわれています。元々ムダにされ、隠れていた能力なので、大きな追加投資をすることなくシステム全体のスループット増大に直結させられます。(関連記事:キャパシティが足りず受注をあきらめざるを得ない?)
抵抗や反発を受けるのは、なぜ?
――稟議を通さなければならないような大きな投資をせずとも、業績向上や経営への貢献が可能。それにも関わらず、変革の継続を経営層や現場が受け入れてくれず、取り組みが頓挫するケースも多いと聞きます。その理由は何でしょうか?
こちらのコラムで、変革し続けることを妨げる要因にある「痛み」や「不安」について触れました。痛みにはおおきく3つ、精神的な痛み、実務的な痛み、組織的な痛みがあります。
痛みの種類 | 例 |
精神的な痛み | ・「安心」「慣れ」との別れ(慣れ親しんだやり方や環境を手放すときに感じる) ・自分の価値が脅かされる感覚(これまで評価されてきたスキルが変化により通用しなくなるかもしれない、と考えるときに覚える) |
実務的な痛み | ・新しいものを導入することによる費用や時間の消費(一時的な生産性の低下が発生することへの懸念) ・やらされ感から生じる現場でのモチベーション低下 |
組織的な痛み | ・変革を推進する人と、守ろうとする人の対立により深刻な分断を生む可能性 ・変革を主導するリーダー層の孤立 |
こうした「痛み」を見て見ぬ振りをするのではなく、冷静に見極め、正面から向き合い丁寧に対処していかなければ、組織の協力を得られず反発を招き、変革は進められません。
ここで、変化を拒む「抵抗の正体」を見える化することができる「チェンジマトリクス」と照らし合わせてみましょう。

図はプログレッシブ・フロー・ジャパンで作成(関連記事:ゴリラの捕まえ方 – 第2章 なぜ変えるのか?)
図は、変化する/しないことについてのメリット(プラス面)とデメリット(マイナス面)を整理しています。それぞれ表しているのは、
- 変化しないデメリット = 現状を続けることで起こる未来のリスク
- 変化しないメリット=現状を維持することで得られる安心
- 変化するメリット=変化することで得られる未来の可能性
- 変化するデメリット=変化に伴う痛み、不安、リスク
です。こうしてみると、痛みとは、変化に伴って生じるもので、「変化するデメリット」に該当します。その裏返しとして、痛みや不安を避け、現状を維持することで得られる安心として、「変化しないメリット」が存在する可能性があります。
もちろん、人の心の内は、直接覗くことはできません。そもそも本人がそうした痛みや不安を押し殺していることに自分でも気づいていない、ということさえありますから。
ーー>次回コラムでは、こうした痛みを解消できるのか、できるとすればどのようにすればよいのか、考えていきます。


プログレッシブ・フロー・ジャパン株式会社
プロジェクトディレクター
【河野全克(かわの まさかつ) プロフィール】SHARP(シャープ)を一躍メジャーにした液晶事業のサプライチェーンを長年牽引するとともに、顧客・サプライヤー・自社のwin-win-win(三方良し)により構築した調和の力で事業の発展に大きく貢献した。現場叩き上げだからこそ語れる失敗談やそこからの学びと成功体験、さらにTOCの合わせ技で、真にクライアントに寄り添うコンサルタントとして活躍中。奈良県出身。
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